介護事業の記帳代行は、事業所ごとに会計を分けた帳簿づけと、国保連からの入金のずれを扱える先に任せるのが要点です。一般の会社と同じ感覚で頼むと、月次の数字がぶれたり、後から按分をやり直したりします。
介護事業所の帳簿には、ほかの業種に無い決まりがあります。運営基準で、事業所ごと・事業ごとに会計を分けるよう定められているためです。
この記事は、訪問介護や通所介護などの事業所を運営し、記帳を外に出すか迷っている株式会社・合同会社・NPO法人の経営者と事務の責任者向けです。
※ 2026年10月時点の情報です。基準省令の条文は2026年10月18日にe-Gov法令検索で確かめました。
この記事でわかること- 介護事業の記帳代行で任せられる範囲と、残る作業
- 介護事業所の帳簿が一般の会社と違う3つの点
- 税理士・記帳代行・経理BPOの選び分け
- 依頼の前にそろえる5つの資料と、起きやすい失敗
介護事業の記帳代行では何を任せられるのか?
介護事業の記帳代行で任せられるのは、仕訳の入力、事業所ごとの区分、月次の試算表づくりの3つです。申告書の作成は税理士の仕事なので、記帳代行の範囲には入りません。
記帳代行とは、領収書や通帳の写しなどの資料を受け取り、会計ソフトへの仕訳の入力と帳簿づけを代わりに行うサービスです。税務の申告や税務相談は含みません。
事業所に残るのは、資料を集めて渡す作業です。通帳の写し、領収書、国保連からの支払の通知などを、毎月決まった日までに送ります。
申告書の作成と税務相談は、税理士の独占業務です(国税庁「税理士制度」)。記帳代行の会社が申告まで引き受けると言う場合は、どの税理士が担うかを確かめてください。線引きは記帳代行と税理士法違反の境目で詳しく扱っています。
記帳代行そのものの仕組みは記帳代行とは?できる範囲と落とし穴にまとめています。この記事では、介護事業所ならではの点に絞ります。
介護事業所の帳簿が一般の会社と違う3つの点は?
介護事業所の帳簿は、会計の区分・入金の時期・加算の賃金の3点で一般の会社と違います。記帳代行を選ぶときは、この3点を扱えるかを聞きます。
1つ目は会計の区分です。訪問介護の基準省令の第38条は、2つの区分を求めています(e-Gov法令検索「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」)。
1つは「指定訪問介護事業所ごとに経理を区分する」ことです。もう1つは、訪問介護の会計と「その他の事業の会計を区分」することです。
同じ省令の第39条は、会計に関する記録を整えておくことも求めています。事業所が2つあれば、帳簿も事業所ごとに分けて見られる形にしておく必要があります。
2つ目は入金の時期です。介護報酬は、事業所が国保連へ請求し、審査を経てから支払われます。サービスを提供した月と、お金が入る月が一致しません。
入るお金は3種類に分かれます。国保連からの介護報酬、利用者負担の分、保険外のサービス代です。入金の経路も時期も違うため、同じ「売上」としてまとめると内訳が追えなくなります。
3つ目は加算の賃金です。令和6年度の報酬改定で、処遇改善に関する3つの加算が「介護職員等処遇改善加算」にまとめられました(厚生労働省「福祉・介護職員の処遇改善」)。加算を受けた事業所は、賃金改善の実績を報告します。給与の帳簿づけで、手当の内訳を分けて記録しておくと報告の作業が楽になります。
事業所ごとの区分は、記帳代行でどう回すのか?
事業所ごとの区分は、仕訳の段階で事業所の名前を付け、共通の経費だけを月末に按分する形で回します。後からまとめて分けるより、手戻りがずっと少なくなります。
会計ソフトの多くは、仕訳に「部門」を付けられます。事業所を部門として登録し、1件ごとに付けていくのが基本です。
迷うのは、事業所をまたぐ経費です。本部の家賃、事務の人件費、車両の費用などが当たります。こうした共通の経費は、延べ利用者数や勤務時間などの基準で按分します。
基準は事業所の実情で選んでかまいません。大事なのは、何で按分したかを書き残すことです。毎月同じ基準で分けていれば、指導や監査で聞かれたときに説明できます。
記帳代行に頼むときは、次の3つを最初に決めておきます。
| 決めること |
決め方の例 |
決めないと起きること |
| 部門の分け方 |
事業所ごと、または事業所×サービスごと |
担当者ごとに付け方がばらつく |
| 共通経費の按分の基準 |
延べ利用者数・勤務時間・床面積 |
月ごとに基準が変わり、比べられない |
| 按分のタイミング |
毎月末にまとめて |
決算前に1年分をやり直す |
この3つを書いた1枚の取り決めを、記帳代行と共有してください。担当者が替わっても、同じ形で帳簿が続きます。
区分した帳簿で、毎月どの数字を見るか
区分した帳簿は、作るだけでなく毎月読んでこそ役に立ちます。見るのは、事業所ごとの次の3つです。
- 提供月の売上:国保連への請求額と利用者負担の合計です
- 人件費の割合:事業所の人件費を、その事業所の売上で割ります
- 共通経費を分けた後の損益:按分した後に、黒字か赤字かを見ます
介護事業は、売上に占める人件費の割合が大きい業種です。全社の合計だけを見ていると、赤字の事業所が黒字の事業所に隠れます。
2つ目の事業所を開いた直後は、特にこの見方が効きます。立ち上げの赤字がいつ埋まるかを、事業所ごとの損益で追えるためです。
記帳代行には、試算表を事業所ごとに分けて出してもらうよう頼みます。会計ソフトの部門別の集計を使えば、追加の作業はほとんどかかりません。
介護事業所が記帳代行を頼むなら、どこまで任せるか?
記帳だけが負担なら記帳代行、請求や支払いまで回らないなら経理BPO、申告と税務相談は税理士に頼みます。分かれ目は、手放したい作業が記帳の先まであるかです。依頼先ごとの違いの全体は記帳代行と経理BPOの違いで比べています。
| 業務 |
税理士事務所 |
記帳代行 |
経理BPO |
| 日々の記帳 |
○ |
○ |
○ |
| 事業所ごとの区分 |
○ |
△(対応する先を選ぶ) |
○ |
| 請求・支払いの管理 |
△(事務所による) |
× |
○ |
| 申告書の作成 |
○ |
× |
×(税理士が担う) |
表の「△」は、先によって対応が分かれる業務です。事業所ごとの区分は、介護事業所の帳簿を扱ったことがあるかで差が出ます。
条件で分けると、次のとおりです。
- 事業所が1つで、記帳だけが重い → 記帳代行で足ります
- 事業所が2つ以上あり、区分と按分に手が回らない → 区分に慣れた記帳代行か経理BPO
- 利用者負担の請求や、職員の経費精算まで止まっている → 経理BPO
- 社会福祉法人である → 社会福祉法人会計基準を扱った実績がある先
社会福祉法人は、株式会社とは別の会計基準で帳簿を作ります。一般の記帳代行では対応できない場合があるため、最初に確かめてください。
費用の目安は記帳代行の費用相場と依頼先別の料金、経理BPOの選び方は経理BPOの選び方にまとめています。
依頼の前にそろえる5つの資料は?
依頼の前には、事業所の一覧・国保連の通知・利用者負担の控え・通帳と領収書・勤務の記録の5つをそろえます。この5つがあれば、最初の月から区分した帳簿を作れます。
- 事業所とサービスの一覧:どの事業所で、どのサービスを行っているかを書き出します
- 国保連の支払の通知:介護報酬の入金の内訳を確かめるために使います
- 利用者負担の請求の控え:誰にいくら請求し、いつ入ったかを照らし合わせます
- 通帳と領収書の写し:入出金と経費の記録のもとになります
- 職員の勤務の記録:人件費を事業所ごとに分ける基準になります
5つ目は見落としやすい資料です。職員が複数の事業所で働いていると、勤務の記録が無ければ人件費を分けられません。
請求の締め日と支払の日程は、所在地の国保連の案内で確かめられます。記帳代行には、自分の地域の日程を最初に伝えておきます。入金が遅れているのか、まだ予定日前なのかを、記帳の段階で見分けられます。
当社は補助金を使った会計ソフトの導入を支援しており、中小企業が経理のどこでつまずくかを申請の現場で見てきました。ソフトを入れても、資料を毎月そろえる手順が無ければ帳簿は止まる、というのが私たちの考えです。
介護事業の記帳代行で起きやすい失敗と避け方は?
介護事業の記帳代行で多い失敗は、入金月で売上を計上する・区分を後回しにする・返戻を見落とすの3つです。どれも、頼む前の取り決めで防げます。
1つ目は、国保連から入金された月に売上を立ててしまう失敗です。サービスを提供した月と売上の月がずれ、月次の損益が毎月上下します。原因は、入金の通知だけを渡し、提供月の請求額を伝えていないことです。避けるには、請求した月の請求額を記帳代行へ渡し、提供月で売上を立てるよう決めます。
2つ目は、事業所の区分を決算前まで後回しにする失敗です。1年分の共通経費を一度に按分するため、根拠があいまいになります。原因は、部門の付け方を最初に決めていないことです。避けるには、区分の節で挙げた3つの取り決めを初月に作ります。
3つ目は、返戻や減額を帳簿に反映しない失敗です。請求した額と入金された額が合わず、差額が残り続けます。原因は、国保連の通知の内訳を記帳代行に渡していないことです。避けるには、通知を毎月そのまま渡し、差額の理由を一行添えます。
記帳代行を頼むべき事業所、まだ待つべき事業所は?
事業所が2つ以上あるか、事務の担当が記帳で月末に追われているなら、記帳代行を頼む時期です。事業所が1つで取引も少ないなら、まだ待ってかまいません。
待つべきなのは、自分で記帳しても月に数時間で終わる事業所です。外に出すと、資料を送る手間と確認のやり取りが新たに増えます。
反対に、次のどれかに当たるなら頼む価値があります。
- 2つ目の事業所を開いた、または開く予定がある
- 月次の試算表が、翌月の半ばを過ぎても出てこない
- 事務の担当が1人で、休むと記帳が止まる
当社の経理BPOを導入した10社の集計では、月次決算が締まるまでの日数が中央値で15日から7日に縮みました(2024年4月〜2026年8月・10社の中央値。個社差が大きい)。この10社は介護事業所に限らない数字です。
また、2023年1月から2026年8月までに契約した経理BPO10社のうち、2年以内に解約したのは1社でした(継続率90%)。私たちは、最初の月に資料の渡し方を決めておくことを勧めています。
よくある質問
介護事業所が記帳代行を頼んでも、自分でやることは残りますか?
残ります。通帳の写し・領収書・国保連の通知を毎月そろえて渡す作業です。仕訳と帳簿づけは任せられます。
介護事業の記帳代行では、何をしてもらえますか?
仕訳の入力、事業所ごとの会計の区分、月次の試算表づくりです。申告書の作成は税理士が担います。
頼んでから、どのくらいで月次の数字が早く出るようになりますか?
資料の渡し方が決まるまでは確認が増えます。早まるのは、毎月の受け渡しの手順が定着してからです。
記帳代行が向かないのは、どんな介護事業所ですか?
事業所が1つで取引も少なく、自分で記帳しても月に数時間で終わる事業所です。外に出しても手間は減りにくいです。
社会福祉法人でも記帳代行を頼めますか?
頼めます。ただし社会福祉法人会計基準に沿った帳簿が要るため、その基準を扱った実績のある先を選んでください。
処遇改善加算の実績報告も記帳代行に任せられますか?
報告書を出すのは事業所です。記帳代行には、報告に使う賃金の内訳を帳簿で分けて記録するよう頼みます。
まとめ: 介護事業の記帳代行は、区分と入金の扱いを先に決める
介護事業の記帳代行は、事業所ごとの区分と、国保連からの入金の扱いを先に決めてから頼むのが要点です。この2つが決まっていれば、記帳を外に出しても月次の数字はぶれません。
記帳だけが重いなら記帳代行、請求や支払いまで止まっているなら経理BPOが合います。外に出した後の引き継ぎは経理の外注で引き継ぎを失敗しない方法で確かめられます。
今日できる一歩は、事業所とサービスの一覧を書き出し、共通の経費を何で按分するかを決めることです。区分の決め方から相談したい場合は、経理BPOの無料相談で一緒に整理できます。
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