飲食店の記帳代行とは、レジ売上・仕入・人件費・経費を毎月の帳簿にまとめる作業を、外部に任せる方法です。頼む先は税理士、記帳代行、経理BPOの3つに分かれ、任せられる範囲が違います。税務の代理や申告は税理士の仕事で、記帳代行は帳簿づけが中心です。自店に必要な範囲を先に決めれば、選び方は難しくありません。
この記事は、自分で帳簿をつけている飲食店のオーナーや、店長に経理を兼務させている経営者向けです。記帳を外に出すか迷っている方を想定しています。
※ 2026年10月時点の情報です。税制は改正されることがあるため、申告の直前には国税庁の最新の案内も確認してください。
この記事でわかること- 飲食店の記帳代行で任せられる範囲
- 税理士・記帳代行・経理BPOの違い
- 依頼前に整える資料4種類
- 失敗する3つのパターンと避け方
- 依頼先を選ぶ5つの確認点
飲食店の記帳代行では何を任せられるのか?
飲食店の記帳代行で任せられるのは、売上・仕入・人件費・経費を帳簿に記録し、月ごとにまとめる作業です。
記帳代行とは、領収書や通帳の明細をもとに、日々の取引を会計ソフトへ入力して帳簿にする作業を外部に任せるサービスです。税務の代理や申告書の作成は含みません。
飲食店の記帳は、一般の店より取引の種類が多いのが特徴です。レジの売上は現金、カード、電子マネー、デリバリー事業者からの入金と、入り口が分かれます。仕入も、食材、飲料、消耗品と業者が複数にわたります。
任せられる作業を、一覧にします。
- レジの日計表をもとにした売上の記帳
- 仕入先ごとの請求書の記帳と、支払の記録
- 通帳とカード明細の入力と、残高の照合
- 給与とアルバイト代の記録
- 月ごとの数字(売上・原価・人件費)の集計
一方で、店の方針を決める判断は任せられません。メニューの値付けや仕入先の見直しは、数字を見て経営者が決める仕事です。記帳代行は、その判断に使う数字を早く正確に出すための手段になります。
税理士・記帳代行・経理BPOはどう違うのか?
税務の代理と申告は税理士、帳簿づけは記帳代行、支払や請求まで含む事務は経理BPOが受け持ちます。
依頼先ごとの違いを表にまとめます。
| 業務 |
税理士 |
記帳代行 |
経理BPO |
| 日々の記帳 |
○ |
○ |
○ |
| 月次の数字の報告 |
○ |
△ |
○ |
| 税務の代理・申告 |
○ |
× |
× |
| 支払・請求の事務 |
△ |
× |
○ |
上の表は一般的な役割の違いで、実際の範囲は依頼先ごとに違います。契約の前に、業務の範囲を文書で確かめてください。
税務の代理や申告書の作成は、税理士の業務と法律で決まっています。記帳代行や経理BPOの会社が、その代わりを務めることはできません。申告まで頼みたいなら、税理士との契約が別に必要になります。
当社は経理BPOを、2023年1月から2026年8月までに10社以上へ導入しています(2026年9月時点)。飲食店のように取引の入り口が多い業種では、記帳だけでなく、支払や請求の事務まで一緒に見直したほうが、手間が減る場面があります。
依頼前に整えておく資料は何か?
渡す資料は、レジの日計・仕入の請求書・通帳とカードの明細・給与の資料の4種類です。
資料が散らばったままだと、記帳代行の費用が膨らむ原因になります。依頼する側が整えるべきことを、種類ごとに挙げます。
| 資料 |
渡し方の目安 |
つまずきやすい点 |
| レジの日計 |
毎日または週ごとに画像かデータで |
現金の実数とレジの数字がずれる |
| 仕入の請求書 |
月末にまとめて、業者ごとに |
納品書だけで請求書が無い |
| 通帳・カード明細 |
ネットバンキングのデータで |
店と個人の口座が混ざる |
| 給与の資料 |
月ごとの支給額の一覧 |
アルバイトの現金払いの記録漏れ |
一番多い失敗は、店の口座と個人の口座が混ざっていることです。仕入の支払を個人のカードで払うと、どれが店の経費か分からなくなります。依頼の前に、店専用の口座とカードを1つずつ用意してください。
軽減税率にも注意が要ります。店内で食べる飲食には10%、持ち帰りには8%の税率がかかります。店内とテイクアウトの売上を分けて残しておけば、後の処理が楽になります。制度の全体像は国税庁の軽減税率制度の案内で確認できます。
レジのデータを、そのまま渡せる形にする
手書きの日報を毎月まとめて渡すと、入力の手間が増えます。多くのレジやキャッシュレス決済の端末は、売上を日ごとにデータとして書き出せます。書き出し方を確かめて、毎月同じ形で渡してください。
帳簿の基本を知りたい方は、個人事業主の帳簿の付け方が参考になります。青色申告特別控除の条件は国税庁の「No.2072 青色申告特別控除」にまとまっています。複式簿記で記帳し、期限内に申告するなどの要件を満たすと、控除額が上がります。
飲食店の月次は、どう回せばよいのか?
月次は「資料を渡す・記帳する・数字を見る・直す」の4段階を毎月繰り返し、翌月の初めに結果を見るのが基本です。
記帳を外に出す目的は、帳簿を作ること自体より、月の数字を早く見ることにあります。食材の原価や人件費が上がっても、数字が3か月後にしか出なければ、手を打つのが遅れます。
当社の集計では、経理BPOを導入した10社で、月次決算が締まるまでの日数が中央値で15日から7日に短縮しました(2024年4月〜2026年8月・10社の中央値。個社差が大きい)。出典は当社の一次データ「経理BPO導入前後の月次決算の所要日数」です。この10社が飲食店とは限らないため、飲食店の数字としては読まないでください。
月次で見る数字は、次の3つに絞ります。
- 売上に対する食材の割合(原価率)
- 売上に対する人件費の割合
- 家賃や光熱費など、売上が減っても変わらない費用
3つとも、前の月と比べて動いた理由を一言で説明できる状態にします。説明できない動きがあれば、その月の資料を見直す合図です。
飲食店のお金の動きを4つに分ける
記帳の勘定科目は、売上、仕入、人件費、固定費の4つの系統で整理すると、月次の数字が見やすくなります。仕入の中でも、食材と飲料と消耗品を分けておくと、どの原価が上がったのかを特定できます。
依頼してから最初の3か月は、何が起きるのか?
最初の3か月は、資料の渡し方を固める期間で、数字の精度は2か月目から安定していきます。
依頼した直後は、やり取りが多くなります。勘定科目の分け方、現金売上の扱い、デリバリーの入金の見方など、店ごとの決まりごとを依頼先と合わせる必要があるからです。ここで決めたルールが、その後の毎月の作業量を左右します。
1か月目は、過去の資料の受け渡しと、科目の分け方の確認が中心です。質問が届いたら、できるだけ当日か翌日に答えてください。返事が遅れると、その月の数字が遅れます。
2か月目は、1か月目の質問をもとにルールを書面にします。「この支払はこの科目」「この入金はデリバリーの売上」といった決まりを、一覧にして共有します。担当者が変わっても、一覧があれば同じ処理が続きます。
3か月目は、月次の数字を使って店の判断をする段階です。原価率と人件費の割合を前の月と比べ、動いた理由を店長と話してください。数字を見る習慣がつくと、記帳を外に出した意味が出てきます。
このとき、依頼先に伝えておくべきことがあります。メニューの改定、仕入先の変更、アルバイトの増減といった店の変化です。変化を知らないまま記帳すると、数字が急に動いた理由を依頼先は判断できません。月に一度、短い連絡を入れる習慣をつくってください。
連絡の中身は、長い報告書である必要はありません。「来月から新メニューを出す」「仕入先を1社変える」「アルバイトが2人増える」の3行で足ります。私が相談を受けてきた範囲でも、変化を先に伝えてくれる店ほど、月次の数字の説明がスムーズに進みます。連絡を受けた依頼先は、数字が動く場所をあらかじめ見ておけるからです。
逆に、連絡が無いまま数字が大きく動くと、依頼先は入力の誤りを疑って確認の質問を重ねます。やり取りが増えれば、報告の日も遅れます。店の側から先に伝えることが、結局は一番早い進め方になります。
飲食店の記帳代行で失敗する3つのパターン
失敗の多くは、資料の渡し方・範囲の取り違え・数字を見ないことのどれかから起きます。
失敗1: 資料を月末にまとめて渡す
起きること:入力が遅れ、月次の数字が翌月の中旬以降にずれ込みます。原因は、1か月分の資料が一度に集まることです。避け方は、レジの日計を週ごとに渡す形にすることです。
失敗2: 記帳代行に、申告まで期待する
起きること:申告の直前に、誰も申告書を作れない状態に気づきます。原因は、記帳代行が税務の代理を担えないことです。避け方は、申告を頼む税理士を先に決めておくことです。
失敗3: 帳簿ができても、数字を見ない
起きること:費用を払っても、原価や人件費の改善につながりません。原因は、月次の数字を判断に使う習慣が無いことです。避け方は、毎月決まった日に3つの数字を見る時間を取ることです。
注意: 現金売上の記録を省かない
現金売上が多い店ほど、レジの日計と現金の実数を毎日残してください。売上の記録が曖昧だと、記帳を外に出しても正しい数字が出ません。
人手が足りずに経理が回らない会社の考え方は、管理部門の人手不足を解決する方法でも扱っています。事務作業の効率化は店舗の事務作業をAIで効率化する方法が参考になります。
依頼先を選ぶ5つの確認点
依頼先は、対応範囲・資料の受け渡し方法・報告の頻度・情報の扱い・費用の決まり方の5点で比べます。
見積もりを取る前に、次の5つを聞いてください。
- 飲食店の記帳の経験があるか。レジやデリバリーの入金に対応できるか
- 資料はデータで渡せるか。写真やクラウドで足りるか
- 月次の数字は、毎月いつまでに報告されるか
- 預けた通帳やカードの情報を、どう守るか
- 費用は、取引の件数か、作業の範囲か、何で決まるか
特に、費用の決まり方は事前に確かめてください。取引の件数で決まる場合、デリバリーやキャッシュレスが多い店ほど費用が上がります。複数の依頼先に同じ条件で見積もりを取ると、比べやすくなります。
自店で続けるか、外に出すかの境目は、月に数時間以上を記帳に使っているかどうかです。店長が経理を兼務していて、数字の確認が後回しになっているなら、外に出す価値を比べる段階に入っています。
待ったほうがよい場合もあります。開業したばかりで取引が少なく、自分で帳簿の仕組みを学びたい時期は、まず自店で始めて構いません。その場合も、店と個人のお金を分けることだけは先に済ませてください。
当社は経理BPOの継続率も集計しています。2023年1月から2026年8月までに契約した10社のうち、2年以内に解約したのは1社です(継続率90%)。集計の条件は、契約から2年以内の解約の有無です。10社という少ない母数なので、目安として見てください。
よくある質問
飲食店の記帳代行では何を渡せばよいですか?
レジの日計、仕入の請求書、通帳とカードの明細、給与の資料の4種類が基本です。
記帳代行と税理士は何が違いますか?
記帳代行は帳簿づけが中心で、税務の代理や申告書の作成は税理士の業務です。
現金売上が多い飲食店でも頼めますか?
頼めます。日々の売上をレジの日計と現金の実数で残しておけば、記帳は進みます。
記帳代行を使うと何がよくなりますか?
月次の数字が早く出るため、食材原価と人件費の見直しを翌月に打てます。
小さな店でも記帳代行を使えますか?
使えます。自分で月に数時間以上かけているなら、外に出す価値を比べる段階です。
まとめ: 飲食店の記帳代行は、範囲を決めてから選ぶ
飲食店の記帳代行は、帳簿づけを外に出して、月次の数字を早く見るための手段です。税務の代理は税理士、帳簿づけは記帳代行、支払や請求まで含む事務は経理BPOと、役割が分かれます。資料を4種類そろえ、申告を頼む税理士を決めたうえで、5つの確認点で比べてください。
今日できる一歩は、店専用の口座とカードを1つずつ用意し、直近1か月のレジの日計を1か所に集めることです。それだけで、どの依頼先にも説明しやすくなります。外委託の範囲に迷ったら、無料相談で一緒に整理します。