経理のマクロ自動化は、Excelのマクロ・VBAを使って請求書の転記や月次集計といった定型作業をボタン1つで自動実行する方法です。関数だけでは対応しきれない「複数シートをまたぐ転記」や「決まった手順の繰り返し」を自動化できる一方、属人化やセキュリティ設定でつまずく企業も少なくありません。本記事では、マクロで自動化できる経理業務5つ、記録マクロとVBAコーディングの違い、導入までの4つの手順、セキュリティ設定の注意点、よくある失敗まで、会計ソフト導入支援の実務を踏まえて解説します。
この記事は、Excelで経理業務を行っており、マクロ・VBAによる自動化を検討している中小企業の経営者・管理部門責任者向けです。
※ 2026年9月時点の情報です。
この記事でわかること
- マクロで自動化できる経理業務5つ
- 記録マクロとVBAコーディングの違い
- 経理マクロ自動化を始める4つの手順
- セキュリティ設定の注意点とよくある失敗
経理のマクロ自動化とは?できる範囲と向かない業務
経理のマクロ自動化とは、Excelの操作手順をあらかじめ記録・プログラムしておき、ボタン1つや自動実行で再現する仕組みです。
経理でのマクロとは、シートのコピー・並べ替え・転記・集計といった一連の操作を記録し、同じ処理を毎回自動で再現する機能を指します。関数が「1つのセルの計算」を担うのに対し、マクロは「複数の操作をまとめて実行する」点が違いです。
エクセルの自動化全体における位置づけは経理の自動化はエクセルでどこまで可能?で整理しています。関数・Power Query・RPAとの使い分けに迷う場合はあわせてご確認ください。
私たちが会計ソフトの導入を補助金で支援する中でも、「毎月同じ作業をエクセルで繰り返している」という相談を数多く受けてきました。転記や集計の手順が毎月ほぼ同じであれば、マクロ化によって作業時間を大きく圧縮できます。
一方でマクロが向かない業務もあります。取引先ごとに処理方法が変わる例外対応や、金額の妥当性を判断する承認業務は、手順が一定でないためマクロ化しにくく、無理に自動化すると誤りに気づけないまま処理が進むリスクがあります。
関数だけで対応できる作業と、マクロが必要になる作業の境目は「複数の操作を毎回同じ順番で繰り返しているか」です。1つのセルの計算で完結するなら関数で十分ですが、シートのコピー・並べ替え・転記といった複数の操作を毎月繰り返しているなら、マクロ化を検討する価値があります。
マクロで自動化できる経理業務5つ
マクロで自動化しやすい経理業務は、転記・集計・チェック・突合・出力という、手順が毎回同じ定型作業です。
マクロで自動化できる経理業務5つ
第一に、請求書データの転記です。取引先ごとに届く請求書の金額や品目を、決まった書式のシートへ自動で転記できます。
第二に、月次集計表の作成です。部門別・勘定科目別の金額を集計し、月次資料の雛形に自動で流し込む処理をマクロ化できます。
第三に、経費精算のチェックです。申請額と領収書の合計が一致しているか、上限額を超えていないかを自動で確認し、不一致だけを一覧に出力できます。
第四に、支払データの突合です。振込予定リストと請求書の金額を照合し、差異がある行だけを色付けして知らせる処理は、マクロが得意とする作業です。
第五に、レポートの自動出力です。集計済みのデータをもとに、決まった形式のグラフや表をワンクリックで生成できます。
転記・集計・チェックは、いずれも「手順が毎回同じ」という共通点があります。逆に言えば、手順が毎回変わる業務はマクロ化に向いていません。まずは自分の作業の中で、毎月まったく同じ手順を繰り返しているものを洗い出すところから始めてください。
記録マクロとVBAコーディングの違い
経理のマクロ自動化には、操作をそのまま記録する「記録マクロ」と、コードを書く「VBAコーディング」という2つの作り方があります。
| 比較項目 |
記録マクロ |
VBAコーディング |
| 作り方 |
操作をそのまま録画するように記録 |
コードを直接記述する |
| できること |
決まった手順の繰り返しのみ |
条件分岐・繰り返し・例外処理も可能 |
| 習得のしやすさ |
プログラミング知識がなくても作れる |
VBAの文法知識が前提になる |
記録マクロは、Excelの「開発」タブから記録を開始し、いつも通りの操作をしてから記録を止めるだけで作成できます。プログラミングの知識がなくても、今日から着手できるのが最大の利点です。
一方で記録マクロは、記録した操作を一字一句そのまま再現するだけのため、「金額が0円の行は飛ばす」といった条件分岐には対応できません。こうした例外処理を加えたい場合は、VBAエディタでコードを直接編集する必要があります。
エクセルの関数とマクロを含めた自動化の全体像や、Power Query・RPAとの違いは経理の自動化はエクセルでどこまで可能?限界と移行の4ステップで解説しています。まずは記録マクロで骨格を作り、例外処理が必要な箇所だけVBAで書き足すという進め方が、実務では失敗しにくい手順です。
経理マクロ自動化を始める4つの手順
経理マクロの自動化は、対象業務の選定からテストまで、4つの手順で進めると失敗しにくくなります。
経理マクロ自動化を始める4つの手順
第一に、自動化する作業を選びます。毎月同じ手順を繰り返している作業のうち、時間がかかっているものから優先的に選ぶと効果を実感しやすくなります。
第二に、記録マクロを作ります。実際の操作を記録し、想定通りの結果になるかをテスト用のコピーファイルで確認します。
第三に、VBAで例外処理を足します。金額が空欄の行や、書式が崩れているデータへの対応など、記録マクロだけでは拾えない例外をコードで補います。
第四に、手順書を残し引き継ぎます。マクロが何をしているかを1枚のシートにまとめておかないと、作成者以外は中身を把握できません。
キーマンズネットが2025年6月に実施したExcelマクロの利用実態調査(330件対象)があります。業務でマクロを「常に使っている」が18.8%、「時々使っている」が50.9%でした。合わせると約7割がマクロを使っている計算になります。用途としては「表計算・集計業務(財務会計など)」が75.2%で最も多く、経理領域はマクロ活用の中心的な用途になっています。
同調査では、脱Excelの取り組みについて「取り組んでいない」と答えた企業が65.8%にのぼりました。多くの企業が、Excelとマクロを使い続けながら経理業務を回しているのが実態だといえます。取引件数が少ないうちは、マクロだけでも十分に運用できる範囲です。
マクロ自動化のセキュリティ設定と注意点
経理マクロの自動化では、ファイルの入手経路によってマクロが自動でブロックされる仕組みを理解しておく必要があります。
Microsoft社は2022年9月、インターネット経由で入手したOfficeファイルのマクロを既定でブロックする仕様を実装しました。メールの添付ファイルや外部からダウンロードしたファイルには「Mark of the Web」という印が付き、マクロを含むブックを開いても自動実行されません。
注意: ブロック解除の安易な操作はNG
マクロがブロックされた際、発行元を確認せずに「コンテンツの有効化」を押すと、悪意のあるマクロを実行してしまう危険があります。ファイルのプロパティから「ブロックの解除」を選ぶ前に、送信元と内容を必ず確認してください。
IPA(情報処理推進機構)はEmotet対策のページで、業務でマクロ機能を使わない場合は無効化しておくことを呼びかけています。経理部門で日常的にマクロを使う場合でも、社内で作成したマクロと外部から届いたファイルのマクロは、扱いを分けて考えることが実務上のポイントです。
自社で作成したマクロは、保存場所と発行元が明確なため「信頼できる場所」として登録しておけば、毎回警告に悩まされずに済みます。詳しい設定手順はVBAマクロの既定ブロックに関する解説記事でも確認できます。
自社の経理のどこに時間がかかっているかは、経理の現状分析(無料)からご相談いただけます。ご契約を前提としたご案内ではありません。
マクロ運用でよくある失敗とNG例
マクロ運用でよくある失敗は、属人化・手順書の不在・ブロック解除の安易な操作という3つに集約されます。
マクロ運用のNG例とOK例
パスワード付きでマクロの中身を隠す運用は、社外への漏えい防止のつもりでも、作成者が不在のときに誰も修正できなくなるという別のリスクを生みます。私たちが支援した企業でも、担当者の退職後にパスワードが分からなくなり、集計を丸ごと手作業に戻したケースがありました。
手順書を残さないまま運用を続けるのも典型的な失敗です。マクロが何をどの順番で処理しているかが分からないと、エラーが出ても原因を特定できず、結局は作り直すことになりがちです。
テストせずに本番データへいきなりマクロを実行するのも避けたい運用です。コピーしたファイルで一度動作を確認してから本番データに適用するだけで、意図しない上書きや二重計上を防げます。
マクロの実行前後で件数や合計金額が一致するかを確認する一手間も、事故を防ぐうえで効果があります。自動化したからといって検算を省略してよいわけではありません。むしろ人の目による確認工程は、自動化した後こそ残しておく必要があります。
マクロだけでは対応できない業務と次の選択肢
マクロ自動化は転記や集計を効率化できますが、判断が必要な例外対応や大量データの外部連携までは対応しきれません。
取引件数が数万行を超えて動作が重くなった場合や、複数のシステムをまたいでデータを連携したい場合は、マクロよりもPythonのような外部ツールが向いています。エクセル内で完結する定型作業ならマクロ、複数システムをまたぐ処理ならPythonという使い分けは、経理自動化はPythonで可能か?で詳しく解説しています。
マクロ化する作業の選び方や、他の自動化ツールとの比較で迷う場合は経理自動化ツールとは?機能5分類と失敗しない選び方も参考にしてください。
判断業務も含めて外部に任せたい場合は、経理BPO(経理アウトソーシング)という選択肢もあります。
当社は補助金を使った会計ソフト・受発注ソフトの導入支援を手がけており、中小企業が経理業務のどこでつまずくかを申請の現場で見てきました。マクロを組んでも属人化から抜け出せないという相談も多くあります。
その場合は、記帳から月次試算表の作成までを外部の専門チームに任せる方法も検討の余地があります。経理BPOの基本的な仕組みは経理BPOとは?メリット3つと費用相場をわかりやすく解説で整理しています。
自社の作業量でマクロと外注のどちらが向いているか分からない場合は、経理BPOの無料相談で概算を確認することもできます。
よくある質問
経理のマクロ自動化とは何ですか?
Excelのマクロ・VBAを使い、転記や集計など定型の経理作業をボタン1つで自動実行する方法です。
マクロで自動化できる経理業務にはどんなものがありますか?
請求書データの転記、月次集計表の作成、経費精算のチェックなど5つが代表的です。
記録マクロとVBAコーディングはどう違いますか?
記録マクロは操作をそのまま記録するだけで、VBAは条件分岐など複雑な処理を書けます。
経理マクロにセキュリティ上の注意点はありますか?
インターネット経由で入手したファイルはマクロが既定でブロックされるため、確認が必要です。
マクロ運用でよくある失敗は何ですか?
手順書を残さないまま作成者が異動・退職し、誰も直せなくなることです。
マクロだけでは対応できない経理業務はありますか?
例外対応や判断業務は残るため、限界を感じたら経理BPOへの外注も選択肢です。
まとめ: 経理マクロ自動化は「対象業務を絞って」始める
経理のマクロ自動化は、転記や集計など手順が毎回同じ業務を選んで着手すれば、記録マクロだけでも作業時間を大きく圧縮できます。例外処理が必要な箇所はVBAで補い、セキュリティ設定と手順書の整備を怠らなければ、属人化のリスクも抑えられます。
判断業務まで含めて負担を減らしたい場合や、マクロを組んでも人手不足が解消しない場合は、経理BPOの無料相談で自社に合った進め方を相談することもできます。まずは自分の作業のうち、毎月まったく同じ手順を繰り返しているものを1つ書き出すところから始めてください。