AI OCRは、請求書の金額・日付・取引先を読み取って入力の手間を減らす仕組みです。 AI OCRは、登録番号が有効か・経過措置の控除割合・源泉徴収の要否・勘定科目の区分の4点を、正しく読めても判断しません。当社が経理代行で担当した7社では、直した仕訳の誤りが年間約90件ありました(2023年4月〜2026年9月)。多くは読み間違いではなく、区分の判断の誤りです。
この記事は、受け取る請求書が月20枚を超え、AI OCRで入力を減らしたい中小企業の経営者・経理担当者向けです。
※ 2026年10月時点の情報です。経過措置の割合は2026年10月1日の改正後の内容です。
この記事でわかること AI OCRが読める項目と、人が判断する項目 正しく読んでも防げない請求書の誤り4つ 2026年10月からの経過措置70%への対応 自社で回す会社と、経理代行に任せる会社の分かれ目
入力を機械に任せた後、人に残る判断は何か?
AI OCRで請求書を入力すると、金額・日付・取引先の手入力が要らなくなり、判断の作業だけが人に残ります。
AI OCRとは 、紙やPDFの請求書から文字を読み取り、項目ごとのデータに変える仕組みです。取引先ごとに書式が違っても、金額や日付の位置を推定して読み取れます。
AI OCRと人の受け持ち
受け持ちを項目ごとに分けると、次の表のとおりです。
項目
AI OCRがすること
人がすること
金額・日付・取引先
読み取る
抜き取りで確認する
登録番号
文字を読む
有効な番号かを照会する
経過措置の割合
判断しない
仕入れの時期で割合を決める
源泉徴収
判断しない
報酬の種類で要否を決める
勘定科目
候補を出す
区分を決める
当社は2023年4月から2026年9月までに、請求書の発行代行を18社、受け取り・支払処理の代行を25社で担当しました。1社あたり月20〜150枚、全体で月約1,800枚を扱っています。AI OCRが速くするのは、この枚数の入力の部分です。
仮に月100枚を受け取り、1枚の入力に3分かかっているとします。入力だけで月300分、つまり5時間です。AI OCRで減るのはこの入力の5時間で、判断の時間は残ります。 自社の枚数と1枚の入力時間を掛けて、減る時間を先に出してください。
読み取りの精度や導入の進め方は、請求書自動化AIの失敗例とOCR誤読の限界 で扱っています。この記事は、正しく読めた後に残る判断に絞ります。
入力が正しくても残る誤り4つ
AI OCRの入力が正しくても残る請求書の誤りは、登録番号・経過措置・源泉徴収・勘定科目の4つです。
当社がインボイス制度への対応を支援した22社では、2023年4月から2026年9月までに次の問題が起きました。登録番号の記載が無い請求書の受け取りが約30件、免税事業者の外注先への対応の相談が8社、経過措置の税率の計算ミスが約12件です。どれも文字の読み間違いではありません。
1. 登録番号が無い・有効でない請求書
登録番号の欄が空の請求書を、AI OCRは「空欄」として読むだけです。 番号が書かれていても、有効かどうかは分かりません。
有効かどうかは国税庁の適格請求書発行事業者公表サイト で照会できます。新しい取引先の最初の請求書だけは、必ず照会してください。記載事項の全体は適格請求書の要件 で確かめられます。
2. 経過措置の控除割合
免税事業者からの仕入れは、仕入れた時期によって控除できる割合が変わります。 AI OCRは請求書の日付を読みますが、どの割合を使うかは決めません。
当社の支援先22社でも、経過措置の税率の計算ミスが約12件ありました。2026年10月に割合が変わったので、次の節で詳しく扱います。
3. 源泉徴収の要否
個人に払う報酬は、種類によって源泉徴収が要るかどうかが分かれます。 請求書に源泉徴収の記載が無くても、払う側が差し引く報酬があります。
国税庁のタックスアンサーNo.2795 では、個人への原稿料や講演料が対象です。支払金額が100万円以下なら、税率は10.21%です。
原稿料・講演料のように国税庁の例に載る報酬なら、自社で判断して差し引いてください。業務委託の中身が対象の報酬に当たるか迷うときは、その請求書を税理士に聞いてください。
4. 勘定科目の区分
AI OCRが出す勘定科目は、過去の仕訳から推した候補にすぎません。 同じ取引先からの請求書でも、中身によって科目が変わります。
当社が2023年4月から2026年9月までに経理代行で担当した7社では、実際に直した仕訳の誤りが年間約90件ありました。内訳は次のとおりです。
経理代行7社で直した仕訳の誤り(年間の概数)
誤りの種類(7社・年間)
件数
外注費と給与の区分
約40件
備品の消耗品処理
約25件
前払費用の計上漏れ
約15件
源泉徴収の漏れ
約10件
誤りのうち「備品の消耗品処理」は、資産に計上すべき備品を消耗品で処理した誤りです。どの誤りも、請求書の文字を読むだけでは見つかりません。
建設業の会社3社の経理代行で、実際に直した仕訳の誤りは接待交際費の扱いでした。飲食店の請求書は正しく読めても、接待か会議かは中身を知る人しか決められません。
外注費の仕訳の考え方は外注費の請求書の仕訳 にまとめています。
2026年10月からの経過措置70%は、AI OCRの設定だけで済むか?
2026年10月からの経過措置70%は、AI OCRの設定だけでは済まず、仕入れの時期を人が決める作業が残ります。
国税庁の令和8年度税制改正特集 によると、控除できる割合は次のとおりです。
仕入れの時期
控除できる割合
2023年10月〜2026年9月
80%
2026年10月から2年間
70%
2028年10月から2年間
50%
2030年10月から1年間
30%
2031年10月以降
控除できない
上の表の『控除できる割合』をグラフにしたもの(数字で書かれていない行は除く) 2023年10月 〜2026年9月 80% 2026年10月から2年間 70% 2028年10月から2年間 50% 2030年10月から1年間 30% 上の表の『控除できる割合』をグラフにしたもの(数字で書かれていない行は除く)
改正前は、2026年10月から50%になる予定でした。古い記事や古い設定のまま50%で計算していないか、まず確かめてください。
割合は、請求書の日付ではなく課税仕入れの時期で決めます。国税庁のインボイスQ&A問113-3 では、商品は引き渡しの日、役務は提供が終わった日で判断します。9月に始まり10月に終わった作業は、70%で計算します。
9月分と10月分がまとめて届く請求書は、AI OCRが1枚として読むため、割合の違いが埋もれます。 月をまたぐ請求書だけは、明細を仕入れの時期ごとに分けて入力してください。
もう1つの改正点があります。同じ免税事業者からの仕入れが年1億円(税込み)を超えると、超えた部分にはこの措置を使えません。2026年10月1日以後に始まる課税期間から適用されます。
年1億円に届く免税事業者の取引先がある会社は、この点を税理士に聞いてください。届かない会社は、割合の切り替えだけを確かめれば足ります。
4点の確認を毎月回す流れ
AI OCRで入力した請求書は、入力・4点の確認・誤りの記録・ルールの修正を毎月1周させると、確認の手間が減っていきます。
AI OCRで入力した請求書を毎月確かめる流れ
1周の中身は次の4つです。
AI OCRで請求書を読み取る
登録番号・経過措置・源泉徴収・勘定科目の4点を人が確かめる
見つけた誤りを、取引先ごとに記録する
誤りが2回出た取引先は、科目の候補や読み取りの設定を直す
当社の判断では、誤りの記録は取引先ごとに残すのがよいと考えています。7社の誤り約90件は、外注費と給与の区分だけで約40件でした。誤りは特定の取引先と特定の種類に寄るため、取引先ごとに見れば直す場所が絞れます。
全部の請求書を毎回細かく見る必要はありません。新しい取引先・個人への支払い・月をまたぐ請求書の3つだけは、毎回人が見てください。 それ以外は、金額と取引先の抜き取り確認で回せます。
確認項目そのものの減らし方は、請求書チェックの効率化 でも扱っています。
AI OCRに向いている会社・向かない会社
AI OCRが向いているのは、受け取る請求書が月20枚以上あり、確認する人が社内にいる会社です。
会社の状態
向いている選択
請求書が月20枚以上・確認する人がいる
AI OCRを自社で回す
請求書が月20枚未満
会計ソフトの手入力のままでよい
確認する人がいない・辞めた
受け取りから経理代行に任せる
現金取引が中心で証憑がそろわない
AI OCRより先に証憑を集める仕組みを作る
月20枚を目安にした理由は、当社が請求書の発行・受け取りを代行している会社の枚数が、1社あたり月20〜150枚だからです。当社の判断では、月20枚に届かない会社は、取引先ごとの癖を覚えさせる手間のほうが大きくなります。
銀行やカードの明細が多い会社なら、AI OCRより先に会計ソフトとの連携を見てください。当社が2023年4月から2026年9月までに銀行・カードの連携とExcelの手入力からの切り替えを行った15社では、入力作業が月平均20時間から6時間になりました。請求書より明細の入力が重い会社は、連携のほうが先に効きます。
現金取引が中心の会社は、AI OCRの導入を見送ってください。当社が2023年4月から2026年9月までに経理代行をお断りした・合わなかった例は7件でした。うち3件は、現金取引が中心で証憑がそろわないことが理由です。読み取る紙が無ければ、AI OCRは働きません。
AI OCRの導入で起きやすい失敗と避け方
AI OCRの導入で起きやすい失敗は、読み取りを信じて判断の確認まで省くことです。
失敗の型を、起きたこと・原因・避け方に分けると次のとおりです。
起きたこと
原因
避け方
免税事業者の請求書を全額控除で計上した
登録番号の空欄を読み取り漏れと見なした
空欄の請求書は照会してから計上する
月をまたぐ請求書を1つの割合で計算した
1枚の請求書を1件として読み取った
月をまたぐ明細は時期ごとに分ける
個人への報酬で源泉徴収が漏れた
請求書に源泉徴収の記載が無かった
個人への支払いは報酬の種類を確かめる
外注費と給与の区分を誤った
科目の候補をそのまま確定した
個人への継続の支払いは契約の中身を見る
この4つの失敗は、AI OCRの精度を上げても防げません。防ぐのは、人が見る場所を決めておくことです。
ツールの比較から始めるのもつまずきの元になります。先に「誰が4点を確かめるか」を決め、その人の時間が取れるかを見てください。 確認する人がいないままツールだけ入れると、誤りが決算まで残ります。
読み取りの後の発注書との突き合わせは、請求書照合の自動化 で扱っています。
今日やること:自社で回すか任せるかを決める
AI OCRを入れる前に、まず先月受け取った請求書の枚数と、確認する人の名前を書き出してください。
書き出す項目は、先月の受け取り枚数、1枚の入力にかかる分数、4点を確かめる人の名前の3つです。メモ1枚で足ります。
書き出した結果で、次のように分かれます。
月20枚以上で確認する人がいるなら、新しい取引先・個人への支払い・月をまたぐ請求書の3つを見る担当を決めてから、AI OCRを試してください
確認する人が辞めた、または兼務で時間が取れないなら、AI OCRより先に経理代行への切り替えを考えてください
税務の判断まで外に任せたいなら、税理士に相談してください。当社は税務の判断をお受けしていません
枚数が多くても、確認する人がいなければAI OCRは回りません。枚数と確認する人の有無が食い違うときは、確認する人の有無を優先して決めてください。
自社で回すか任せるかは、確認の工数でも比べられます。仮に月100枚の請求書で、1枚の確認に2分かけるなら、確認は月200分、つまり約3時間です。この時間を社内で取れるなら自社で回し、取れないなら経理代行を選びます。
試すときは、まず1か月分の請求書だけをAI OCRに通してください。誤りの件数を取引先ごとに数え、翌月のルール修正に使います。費用の比較は、経理代行の見積もりと、確認に使う社内の時間を並べて行います。
AI OCRを入れない判断もあります。月20枚未満で、会計ソフトの手入力が短時間で済む会社は、そのままで構いません。当社が銀行・カード連携で入力を月平均20時間から6時間にした15社のように、明細の入力が重い会社は連携を先に見てください。
当社が経理代行をお断りした7件のうち2件は、税務の判断まで求められたことが理由でした。経理代行で受け持てるのは、受け取り・入力・支払処理と仕訳の確認までです。
経理担当が離職した大手コンサル会社から、経理BPOを導入したいという問い合わせがあり、契約を結びました。当社の判断では、確認する人がいなくなった会社は、ツールより体制を先に決めてください。ツールを入れても、4点を確かめる人がいないためです。
当社は2026年10月に、2つのAI(ChatGPT・Claude)へ経理代行・記帳代行に関する質問を50問聞き、答えの出典668件を種類ごとに数えました。経理代行会社を探す質問では、出典の28.8%が比較・紹介サイト、56.1%が経理代行会社の公式サイトでした。詳しくは業種調査 にあります。経理代行を選ぶ際は、公式サイトで依頼できる範囲を確かめてください。
よくある質問
AI OCRで請求書を読めば、経理の確認は要らなくなりますか? 要ります。AI OCRが減らすのは入力の手間で、登録番号の有効性・控除割合・源泉徴収・科目の4点は人が判断します。
AI OCRは請求書の登録番号が有効かまで確かめられますか? AI OCRは番号の文字を読むだけです。有効かどうかは国税庁の公表サイトで照会するか、照会機能のある仕組みで確かめます。
2026年10月以降に免税事業者から仕入れた分は、何%を控除しますか? 2026年10月から2年間に免税事業者から仕入れた分は、控除できる割合が70%です。割合は仕入れの時期で決めます。
AI OCRを自社で回すか、経理代行に任せるかはどう決めますか? 月20枚以上の請求書があり確認する人がいれば自社で回せます。確認する人がいないなら経理代行が向いています。
AI OCRを入れても効果が出にくいのはどんな会社ですか? 現金取引が中心で請求書や領収書がそろわない会社です。読み取る証憑が無いと、AI OCRは働きません。
経理代行に頼むと、請求書の何をしてもらえますか? 当社では請求書の受け取り・入力・支払処理と仕訳の確認を受け持ちます。税務の判断は税理士の領域で、当社は行いません。
まとめ:AI OCRは入力を減らし、4点の判断は人に残す
AI OCRは請求書の入力を減らしますが、登録番号・経過措置・源泉徴収・勘定科目の4点は人が判断します。
2026年10月から、免税事業者からの仕入れの控除割合は80%から70%に変わりました。月をまたぐ請求書と新しい取引先の請求書は、毎回人が見てください。
確認する人がいる会社はAI OCRを自社で回し、いない会社は受け取りから経理代行に任せる。 この分け方で、どちらを選ぶかを決めてください。
テーマ「請求書」の記事をまとめて見る
読み終えた方へ
経理業務の棚卸しシートPDF・A4・4ページ いま誰が何にどれだけ時間を使っているかを1枚に書き出し、外に出せる範囲と社内に残す範囲を切り分けるためのシートです。年間の人件費に換算するところまで進めます。
登録不要・その場でダウンロードできます