経理担当者の退職対応は、退職の申し出を受けた直後に業務範囲の洗い出しと引き継ぎ計画の作成をセットで進め、退職日までに引き継ぎを終える一連の対応です。後回しにすると、月次決算や支払業務が退職直後に止まり、取引先への支払いが遅れます。本記事では、申し出直後にやるべきこと、退職までのチェックリスト、退職後の経理体制の選び方を解説します。
この記事は、経理担当者から退職の申し出を受け、何から手を付ければよいか知りたい中小企業の経営者・管理部門責任者向けです。
※ 2026年8月時点の情報です。
この記事でわかること
- 退職の申し出を受けた直後にやる5つのこと
- 退職までに確認すべき業務・データのチェックリスト
- 退職後の経理を回す3つの選択肢
- 退職対応でよくある失敗と防ぐための備え
経理担当者の退職とは?対応が遅れると起こること
経理担当者の退職対応が遅れると、月次決算や支払業務、給与計算といった期限のある業務が退職直後から止まります。経理は1人体制の会社が多く、退職者の業務が誰にも引き継がれないまま止まるケースが目立ちます。
実際の進め方は経理AI自動化とは?できること5つと導入4ステップで整理しています。
経理担当者の退職対応とは、退職の申し出を受けてから、業務の洗い出し・引き継ぎ計画の作成・後任体制の決定までを計画的に進める一連の対応のことです。退職日までの期間が短いほど、直後の初動が結果を左右します。
株式会社kubellパートナーが2026年4月29日〜5月8日に実施した「バックオフィス業務の効率化に関する実態調査」(従業員300人未満企業のバックオフィス担当者86名対象)があります。担当者の退職・休職で「何らかの影響がある」と回答した企業は82.6%、うち44.2%が「重大な支障または大きな混乱が生じる」と答えました。
属人化を課題と感じている企業も55.8%にのぼります。特定の担当者しか業務を把握していない状態で退職が発生すると、影響は一部の業務にとどまりません。退職者本人だけの問題ではなく、体制そのものの弱さが表面化するタイミングと捉えたほうが、対応の優先順位を付けやすくなります。
支払業務が1週間止まると、取引先への支払遅延として信用に直結します。給与計算が止まれば、従業員への影響はさらに大きくなります。退職対応は「人が抜ける」という話ではなく、「どの業務がいつまでに止まるか」という時間の問題。そう捉えたほうが、初動の優先順位が決めやすくなります。
退職の申し出を受けた直後にやる5つのこと
退職の申し出を受けたら、退職日確認・業務洗い出し・計画立案・関係者共有・優先業務の選定という5つを直後に行います。
退職の申し出を受けた直後にやる5つのこと
1つ目は退職日の確認です。法律上、退職の意思表示から2週間で雇用契約を終了できますが、実務上は1〜2か月の余裕をもらえないか相談する価値があります。2つ目は業務範囲の洗い出しです。担当者本人が持つ業務を、月次・週次・都度対応の3種類に分けて一覧化します。
3つ目は引き継ぎ計画の作成です。退職日から逆算し、いつまでに何を終えるかを決めます。4つ目は関係者への共有です。社内の関係部署だけでなく、取引先や顧問税理士にも早めに伝えておくと、引き継ぎ中の問い合わせ対応がスムーズになります。
5つ目は優先業務の選定です。すべてを同じ密度で引き継ぐ時間はないことが多く、次章のチェックリストを使って止めてはいけない業務から着手してください。
退職までに確認すべき業務・データのチェックリスト5つ
退職までに、会計ソフトの権限・仕訳の判断基準・支払期日・取引先連絡先・未処理案件の5点を確認します。
退職までに確認すべき業務・データ5つ
会計ソフトの権限は、IDとパスワードだけでなく、承認権限の範囲まで確認してください。仕訳の判断基準は、取引先ごとの処理ルールや消費税区分の考え方を本人に聞き出しておく必要があります。
支払い・請求期日は、締め日と支払日の一覧を作り、退職後も遅延しない体制を整えます。取引先の連絡先は、経理担当者しか知らない窓口があることも多く、リスト化が欠かせません。
未処理の案件は、退職日時点で止まっている仕訳や確認待ちの請求書を洗い出します。この5点が確認できていないまま退職日を迎えると、後任やBPOへの引き継ぎ自体が始められません。
5点はいずれも、退職者本人の頭の中にしかない情報になりがちです。私も相談を受けた際、会計ソフトの承認権限が退職者1人に集中していた会社に出会ったことがあります。権限の再設定だけで数日かかり、支払処理が一時止まりました。チェックリストは、退職日の1〜2週間前までに一度埋めてみてください。
退職後の経理を回す3つの選択肢
退職後の経理は、後任採用・派遣やパートの活用・経理BPOへの外注という3つの選択肢から検討します。
あわせて経理外注の依頼先|記帳代行センターと税理士の違い5つもご覧ください。
| 選択肢 |
向いている会社 |
体制が整うまでの目安 |
| 後任採用 |
業務量が多く常勤が必要な会社 |
1〜3か月 |
| 派遣・パート活用 |
繁忙期だけ人手が必要な会社 |
2週間〜1か月 |
| 経理BPO外注 |
属人化を解消し外部委託に切り替えたい会社 |
2週間〜1か月 |
後任採用は、募集から入社まで時間がかかる点が課題です。厚生労働省の「一般職業紹介状況」によると、2024年9月時点で求職者1人あたりの求人数を示す有効求人倍率は、会計事務従事者が0.61倍と一般事務の0.32倍を上回ります。会計事務は事務職の中でも採用しにくい職種。後任がすぐ見つからない前提で計画を立てたほうが安全です。
派遣やパートの活用は、繁忙期だけの人手不足であれば短期間で立ち上がります。ただし、判断業務まで任せるには教育期間が必要で、属人化した業務ほど時間がかかります。記帳のような定型業務から任せ、判断が必要な業務は社内に残す切り分けが現実的です。
経理BPOへの外注は、属人化していた業務をマニュアル化しながら委託先に移せる点が特徴です。当社は補助金を使った会計ソフト・受発注ソフトの導入支援を手がけており、中小企業が経理業務のどこでつまずくかを申請の現場で見てきました。退職をきっかけに、属人化していた業務ごと外部の型に載せ替える会社は珍しくありません。
M&Iリサーチセンターが2025年8月に発刊したバックオフィス業務ビジネスプロセスサービス市場の調査があります。この市場は2024年度の5,778億円から2029年度には7,987億円へ拡大する予測です。委託先の選択肢が増えているぶん、退職を機に比較検討しやすい時期とも言えます。
自社にどの選択肢が合うか判断しづらい場合は、経理BPOの無料相談で業務量と緊急度を一緒に整理することもできます。
経理担当者が辞めやすい会社に共通する原因と防ぐ対策
経理担当者が辞めやすい会社は、属人化と業務過多が共通しており、マニュアル化と外注活用で防げます。
1人に業務が集中している会社ほど、退職の連鎖が起きやすくなります。前任者の穴を後任1人で埋めようとすると、同じ負荷が繰り返され、次の退職を招きます。負荷を分散させずに人を入れ替えるだけの対応は、根本的な解決になりません。
対策の1つ目はマニュアル化です。仕訳の判断基準や業務フローを書面化しておくと、退職が発生しても引き継ぎの負担を大きく減らせます。マニュアル化の具体的な進め方は、経理の属人化を解消する5つの方法|原因とリスクも解説で詳しく解説しています。
対策の2つ目は複数人体制です。1人が抜けても業務が止まらないよう、担当を分散させておきます。経理の人手不足そのものへの対策は、経理の人手不足対策8つ|原因とすぐできる対応を解説にまとめています。
対策の3つ目は、経理BPOの活用です。社内に属人化した業務が残らない体制にできます。委託先の選び方は、経理代行の選び方5選|比較軸と契約前チェックリストを参考にしてください。
退職対応でよくある失敗と回避策
退職対応でよくある失敗は、引き継ぎ計画を作らず退職日の直前に着手してしまうことです。
退職対応のNG行動とOK行動
1つ目は、計画を作らずに退職日直前へ着手するケースです。回避策は、申し出を受けた当日に退職日までの逆算スケジュールを引くことです。
2つ目は、口頭説明だけで引き継ぎを済ませるケースです。私も引き継ぎに立ち会ったことがあります。資料が口頭説明のみだった会社では、退職後の初回月次決算で仕訳の判断に丸1日以上かかりました。
注意: 後任探しは退職後に始めない
後任採用も派遣の手配も、動き始めてから体制が整うまで数週間から数か月かかります。退職の申し出を受けた時点で、後任・派遣・BPOのどれを取るか仮決めしておくと、退職日以降の空白期間を防げます。
3つ目は、判断基準を聞かずに送り出してしまうケースです。属人化が進んだ経理ほど、資料だけでは業務の半分も再現できないことがあります。退職者本人に「なぜこの処理にしているか」を聞き出す時間を、引き継ぎ期間の中に必ず確保してください。
引き継ぎ資料の具体的な項目や進め方は、経理外注の引き継ぎ|必要資料と失敗しない5ステップ【2026年】でさらに詳しく解説しています。
4つ目は、退職者への感謝や配慮を後回しにしてしまうケースです。引き継ぎを急かすあまり事務的な対応に終始すると、退職者の協力を得にくくなります。業務の引き継ぎと同じくらい、退職までの関係づくりも最後まで意識してください。
どこから手をつけるべきかの整理は、経理の現状分析(無料)からご相談いただけます。ご契約を前提としたご案内ではありません。
経理担当者の退職に備えておくべきこと
経理担当者の退職に備えるには、平時からマニュアル化と複数人体制、BPO活用の検討を進めておくことです。
退職は、申し出を受けてから対応するだけでは後手に回ります。私たちセブンセンシズは2020年3月に創業し、大阪市東成区を拠点に中小企業のバックオフィス支援に携わってきました。支援先の多くが経理担当者1人の体制で、引き継ぎ資料がほとんど残っていない場面を数多く見てきています。
平時にできる備えは3つあります。1つ目は、業務フローと仕訳ルールを書面化しておくことです。2つ目は、退職が起きたときの初動チェックリストを社内で共有しておくことです。3つ目は、経理BPOへの切り替えを退職前から選択肢として検討しておくことです。
3つとも、退職の申し出を受けてから準備すると間に合わないものばかりです。書面化は年に1回、会計ソフトの更新やルール変更に合わせて見直すと、内容が古くならずに済みます。初動チェックリストは、本記事の2つの図解をそのまま社内の手順書に転用しても構いません。経理BPOの検討は、契約するかどうかを決める前の情報収集だけでも早めに始めておく価値があります。
備えがある会社ほど、退職の申し出を受けた直後の動きが速くなります。まずは前章までのチェックリストで、自社に何が残っているかを洗い出してみてください。対応に迷う場合は、経理BPOの無料相談で体制づくりから相談することもできます。
よくある質問
経理担当者が退職を申し出たら、まず何をすればいいですか?
退職日を確認し、業務範囲の洗い出しと引き継ぎ計画の立案をすぐに始めることです。
退職までに確認しておくべきことは何ですか?
会計ソフトの権限、仕訳の判断基準、支払期日、取引先連絡先、未処理案件の5点です。
退職後の経理体制はどう選べばいいですか?
業務量と緊急度に応じて、後任採用・派遣やパートの活用・経理BPO外注から選びます。
経理担当者が急に退職すると、引き継ぎができないこともありますか?
資料がなければ判断基準の再現が難しくなるため、退職前の聞き取りが欠かせません。
経理担当者の退職を繰り返さないためにはどうすればいいですか?
マニュアル化と複数人体制の整備、経理BPOの活用で属人化を防ぐことが有効です。
まとめ: 経理担当者の退職対応は直後の5つの初動で決まる
経理担当者の退職対応は、退職日確認・業務洗い出し・引き継ぎ計画・関係者共有・優先業務の選定という5つを申し出直後に行うことが基本です。属人化した業務ほど資料だけでは再現できない判断が残るため、退職前に聞き出す工程を省略しないことが欠かせません。
退職後の体制は、後任採用・派遣やパートの活用・経理BPO外注の3つから、業務量と緊急度に応じて選んでください。まずは経理BPOの無料相談で、自社に合う体制と引き継ぎの進め方を聞いてみることもできます。
退職は一度きりで終わるとは限りません。平時のマニュアル化と複数人体制づくりが、次の退職への一番の備えになります。