経理規程は、経理の決まりを1つにまとめた社内文書の名前です。経理規定は、その中にある1つ1つの条文を指します。題に書くなら「経理規程」、「第5条の規定」と条文を指すなら「規定」が正しい使い分けです。
表記より大事なのは、規程に何を書くかです。当社が経理代行で担当した7社では、直した仕訳の誤りが約90件ありました(2023年4月〜2026年9月)。その多くは、区分の基準を決めていれば防げた誤りでした。
この記事は、経理規程を作る・見直すよう求められた中小企業の経営者・管理部門の責任者向けです。
※ 2026年11月時点の辞典・国税庁の情報にもとづきます。
この記事でわかること- 経理規程と経理規定の表記の使い分け
- 2つを5項目で比べた一覧表
- 決めないと仕訳がぶれる3つの区分
- 電子帳簿保存法の事務処理規程との違い
- 経理規程を作るべき会社・まだ要らない会社
経理規程は文書のまとまり、規定は1つの条文
経理規程は条文をまとめた文書全体の名前で、経理規定はその中の個々の条文を指します。辞典でもこの区別ははっきりしています。
規程とは、一定の目的のために定められた一連の条項の総体です。規定とは、法令などの中の個々の条項の定めです(有斐閣『法律用語辞典』2020年)。
国立国会図書館のレファレンス協同データベースが、この定義を辞典ごとに並べています。岩波国語辞典(2019年)も、規程を組織の内部で事務手続きを定めた一まとまりの規則と説明しています。
国税庁の文章も同じ使い分けです。タックスアンサーNo.5403は「一括償却資産の損金算入の規定」と書き、個々の条文を「規定」と呼んでいます。
経理規程と経理規定を5項目で比べる
経理規程と経理規定は「指すもの」「使う場面」「例」「数え方」「動詞にできるか」の5項目で見分けられます。迷ったら、文書の題か条文かを考えてください。
| 比較項目 |
経理規程 |
経理規定 |
| 指すもの |
経理の決まりをまとめた文書全体 |
文書の中の1つの条文 |
| 使う場面 |
社内文書の題・規程集の目次 |
「第5条の規定により」と条文を指すとき |
| 例 |
経理規程・固定資産管理規程 |
承認についての規定 |
| 数え方 |
1つの文書 |
第◯条ごとに数える |
| 動詞にできるか |
できない(「規程する」は誤り) |
できる(「規定する」) |
経理規程と経理規定の比較で見落としやすいのは、使う場面です。法令の名前には今は「規程」を原則として使わず、「規則」を使います(有斐閣『法律用語辞典』2020年)。社内の文書の題は、条文と紛れないよう「経理規程」にそろえてください。
経費の精算だけを決める文書は、経費精算ルールの作り方で項目ごとに整理しています。
経理規程に書く4つの分野
中小企業の経理規程には、日々の処理・お金の出入り・区分の基準・決算と保存の4つの分野を書けば足ります。項目を増やすより、1つずつ具体的に書くほうが守られます。
日々の処理は、証憑をいつまでに誰へ渡すかと、毎月の締め日です。お金の出入りは、支払を誰が承認するかと、現金を誰が扱うかを書きます。
区分の基準は、固定資産に載せる金額と、外注費と給与の分け方です。決算と保存は、決算の手順と帳簿を何年残すかを書きます。
当社は補助金を使った会計ソフト・受発注ソフトの導入支援を手がけており、中小企業が経理業務のどこでつまずくかを申請の現場で見てきました(自社の支援実務、2026年8月時点)。
経理規程の4つの分野のうち、当社が最も重く見るのは区分の基準です。人によって判断が分かれ、誤りが後から見つかる項目だからです。
AIの答えは、公的資料の判断を補う使い方が向いています。当社は2026年11月に、2つのAI(ChatGPT・Gemini)へ本記事の論点5問を聞き、答え10件を数えました。10件の答えの出典に挙がったページは28件で、公的機関・学会・業界団体が2件、ニュース・メディア・まとめが4件でした(出典: 当社調べ)。
同じ調べでは、10件の答えのうち、触れていたのは期間(◯か月・◯日など)は0件、費用の金額(◯円)は1件、注意点・失敗・リスクは1件でした(出典: 当社調べ)。
公的機関などの出典は28件のうち2件だけでした。そのため、AIの答えだけで規程の基準を決めるのは避けてください。金額の基準は、上の国税庁の資料で確かめてから書くのが安全です。
決めないと仕訳がぶれる3つの区分
外注費と給与、備品と固定資産、交際費の範囲の3つは、経理規程に基準が無いと担当者ごとに仕訳がぶれます。当社が担当した会社で実際に直した誤りから選びました。
2023年4月から2026年9月までに経理代行で担当した7社で、実際に直した仕訳の誤りは、通算で約90件でした。多い順に外注費と給与の区分(約40件)、資産に計上すべき備品の消耗品処理(約25件)、前払費用の計上漏れ(約15件)、源泉徴収の漏れ(約10件)です。
出典は当社の支援実績(2026年10月時点)です。件数を表にまとめます。
| 誤りの種類 |
件数(約) |
| 外注費と給与の区分 |
40 |
| 備品の消耗品処理 |
25 |
| 前払費用の計上漏れ |
15 |
| 源泉徴収の漏れ |
10 |
区分1: 外注費と給与
外注費と給与は、契約の名前ではなく働き方で分ける基準を規程に書きます。担当7社の誤り約90件のうち約40件が、この区分でした。同じ人への支払でも、担当者によって外注費にしたり給与にしたりしていたためです。
規程には「雇用契約の人は給与、請負の契約書がある人は外注費」と書きます。契約書が無い支払は、仕訳の前に経理責任者へ回すと決めてください。
当社の判断では、契約書が無くても、始業時刻の指定・場所の指定・他の仕事を断れない、のどれかに当たれば給与に近いと見ます。当てはまるなら自分で決めず、税理士に聞いてください。どれにも当たらず請負の実態が書面で残るなら、自社で外注費と決めてよいです。
区分2: 備品と固定資産
備品と固定資産は、1単位の金額で分ける基準を規程に書きます。担当7社の誤り約90件のうち約25件は、資産に計上すべき備品を消耗品で処理した誤りでした。国税庁のNo.5403では、10万円未満かどうかは通常1単位として取引される単位ごとに判定します。
青色申告で常時使用する従業員が400人以下の法人なら、40万円未満の特例が候補です(No.5408、令和8年4月1日以後の取得、年300万円まで)。条件に当たるか分からない場合だけ、税理士に確かめてください。
当社の判断では、10万円以上40万円未満の備品を年に何度も買う会社は、特例を候補にします。年に1〜2回しか買わない会社は、特例を見送って構いません。年の合計が上限に近づきそうなら、税理士に聞いてください。
判定の記録は、購入日・品名・1単位の金額・判定・判定した人の5つを1行にします。この1行が残っていれば、担当者が替わっても判断を追えます。
区分3: 交際費の範囲
交際費は、社外の相手が同席したかどうかで分ける基準を規程に書きます。建設業の会社3社の経理代行で、実際に直した仕訳の誤りは接待交際費の扱いでした(2026年10月時点)。取引先との食事と社内の打ち合わせの食事が、同じ科目に混ざりやすいためです。
規程には「社外の相手が同席した食事は交際費」と書き、同席者の名前を証憑に残すと決めます。建設業の外注費の誤りは、建設業の外注費の仕訳で起きやすい3つの誤りで詳しく扱っています。
電子帳簿保存法の事務処理規程は経理規程と別に要る?
電子取引データの事務処理規程は、経理規程とは目的の違う文書で、タイムスタンプや履歴の残るシステムを使わない会社には必要です。国税庁はひな形を公開しています。
国税庁の参考資料(各種規程等のサンプル)には、法人の例と個人事業者の例の2種類があります。名前は「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」です。
電子取引データの事務処理規程は、改ざんを防ぐ措置の1つです。訂正や削除の履歴が残るシステムで保存している会社は、別の措置で足ります。
使っているシステムに訂正・削除の履歴が残らないなら、ひな形を自社の取引に合わせて作ってください。保存の全体の流れは、電子帳簿保存法の中小企業の対応3ステップで確かめられます。
経理規程を作るべき会社・まだ要らない会社
経理を2人以上で回す会社と、経理を外注する会社は、経理規程を先に作ってください。社長1人で記帳と承認をしている会社は、1枚の基準書で足ります。
| 会社の状態 |
向いている形 |
理由 |
| 社長1人が記帳と承認をしている |
区分の基準だけを書いた1枚 |
判断する人が1人で、ぶれが起きにくい |
| 経理担当が1人いる |
経理規程(4分野) |
担当者が辞めると判断の根拠が消える |
| 経理を2人以上で回す |
経理規程と職務分掌 |
人によって仕訳が分かれる |
| 経理を外注する・外注を考えている |
経理規程を外注先と共有 |
外注先は基準どおりに仕訳する |
担当者が1人の会社は、規程を後回しにしがちです。経理担当が離職した大手コンサル会社から、経理BPOを導入したいという問い合わせがあり、契約を結びました。当社の判断では、担当者が1人の会社ほど、判断の基準を文書に残しておく価値が大きいと考えています。
規程を後回しにすると、迷う仕訳のたびに担当者が判断し直します。仮に迷う仕訳が月10件あり、1件の確認に往復で30分かかるなら、月5時間が確認だけに消えます。自社の件数と時間に置き換えて数えてみてください。誤りは決算や税務調査の前後に見つかるため、直す手間が後ろにたまります。
一方で、規程より先に片づけることがある会社もあります。2023年4月から2026年9月までに経理代行の依頼をお断りした・合わなかった例は7件でした(当社の支援実績)。理由は現金取引が中心で証憑がそろわない(3件)、決算直前の丸投げで期限に間に合わない(2件)、税務の判断まで求められた(2件)でした。
証憑が手元にそろわない会社は、規程を作る前に、証憑を集める流れを先に整えてください。基準を書いても、仕訳の元になる証憑が無ければ使えないためです。
当社の判断では、現金取引が中心で毎月の支払に証憑の無いものが混ざるなら、証憑の流れが先です。毎月の支払の証憑がほぼそろうなら、規程から進めて構いません。
表の「経理を2人以上で回す」と「経理を外注する」の両方に当たるなら、外注先と規程を共有する形を優先してください。仕訳をする人が社外にいると、基準のずれが最も見つけにくいためです。
経理代行会社をAIで探すと、出典が公式サイトに偏る
AIで経理代行会社を探すと、出典は会社自身の公式サイトに偏ります。これは経理規程に限らない、経理代行・記帳代行全般の集計で、外注先選びの注意として載せています。当社は2026年10月に、2つのAI(ChatGPT・Claude)へ経理代行・記帳代行に関する質問を50問聞き、答えの出典668件を種類ごとに数えました。経理代行会社を探す質問では、出典の28.8%が比較・紹介サイト、56.1%が経理代行会社の公式サイトでした(出典: 業種調査)。公式サイトの説明だけで決めず、規程の基準どおりに仕訳してくれるか、依頼前に確かめてください。
外に任せられる範囲は、経理の外注で丸投げできる範囲と残す4業務で確かめられます。
経理規程づくりで起きる3つの失敗
経理規程の失敗は、ひな形を写しただけで自社の判断の基準を書かないことから起きます。起きたこと・原因・避け方の順に挙げます。
失敗1: ひな形を写し、金額の基準が空欄のまま
ひな形を写した規程で起きたことは、規程はあるのに備品の仕訳が担当者ごとに違う状態です。原因は、固定資産に載せる金額の欄を埋めなかったことにあります。避け方は、ひな形の空欄を最初に埋めることです。
失敗2: 題を「経理規定」と書き、条文の引用がずれる
題を「経理規定」と書いた社内文書で起きたことは、題と本文の「第◯条の規定」が混ざり、どの文書の話か分からなくなる状態です。原因は、規程と規定を同じ意味で使ったことです。避け方は、題を「経理規程」、条文は「規定」とそろえることです。
失敗3: 作った後、外注先や税理士と読み合わせない
読み合わせをしない規程で起きたことは、外注先が前の担当者のやり方で仕訳を続ける状態です。原因は、規程を社内だけで回したことにあります。規程を作っても、仕訳をする相手が読んでいなければ基準は効きません。
経理規程を1か月で作る流れ
経理規程は、過去の迷った仕訳から書き始めると1か月で形になります。ひな形の全項目を一度に埋めようとしないでください。
1日目は、過去3か月の仕訳から、区分に迷った仕訳を抜き出します。1週目に、迷った区分ごとに基準を1行ずつ書きます。
2週目に、支払の承認者と毎月の締め日を決めます。1か月目に、外注先や税理士と読み合わせ、基準の言葉をそろえます。
担当者が辞める前に基準を残したい場合は、経理の属人化を解消する5つの方法もあわせて読んでください。
よくある質問
経理規程と経理規定はどちらが正しい表記ですか?
文書の題なら「経理規程」、その中の1つの条文を指すなら「規定」です。社内文書の題は経理規程にそろえてください。
経理規程は自社だけで作れますか?
承認の流れ・締め日・固定資産に載せる金額の基準は自社で決められます。税の特例の条件に当たるかは税理士に確かめてください。
経理を外注するときも経理規程は要りますか?
要ります。外注先は規程の基準どおりに仕訳します。基準が無いと、迷う仕訳のたびに確認の往復が増えます。
電子帳簿保存法の事務処理規程と経理規程は同じものですか?
目的の違う文書です。事務処理規程は電子取引データの訂正と削除を防ぐ決まりで、国税庁がひな形を公開しています。
経理規程をまだ作らなくてよいのはどんな会社ですか?
社長1人が記帳と承認を行い、外注の予定も無い会社です。その場合も固定資産に載せる金額の基準だけは1枚に書いてください。
経理規程に最初に書くことは何ですか?
固定資産に載せる金額の基準と、外注費と給与の分け方です。当社の担当7社で直した誤り約90件のうち約65件がこの2区分でした。
まとめ: 表記をそろえ、迷った仕訳から基準を書く
経理規程は文書の名前、経理規定はその中の条文です。題は「経理規程」にそろえ、中身は自社が迷う区分の基準から書いてください。
まず、過去3か月の仕訳から、10万円以上の備品と外注先への支払を抜き出してください。処理が担当者や月によって分かれていたら、その区分が規程に最初に書く1行です。
1行の書き方は、区分ごとに同じ形です。例えば「1単位の金額が基準額以上の備品は固定資産に計上する」「社外の相手が同席した食事は交際費にする」「契約書の無い支払は経理責任者へ回す」と書きます。
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