月次決算の分析方法は、締め後の試算表を「前月」「前年同月」「予算」の3つと比べ、差の大きい科目から理由を確かめる手順です。全科目を同じ重さで眺めても、打ち手は決まりません。
月次決算の分析では、比べる前に試算表が締め後のものかを確かめてください。締める前の試算表で比べると、月割りの抜けや科目の誤りを「業績の変化」と読み違えます。本記事では、科目の絞り込み方と、会社の状態ごとに最初に見る数字を示します。
この記事は、毎月の試算表は届くのに、どこを見て何を決めればよいか分からない中小企業の経営者・経理責任者向けです。
※ 2026年10月時点の情報です。交際費の税務の扱いは、国税庁のタックスアンサー(令和8年4月1日現在法令等)で確認しています。
この記事でわかること- 月次決算の分析で使う3つの比較(一覧表)
- 分析する科目を4段階で絞り込む方法
- 会社の状態ごとに最初に見る数字
- 接待交際費を分析の前に確かめる理由
月次決算の分析は「3つの比較」で行う
月次決算の分析は、締め後の数字を前月・前年同月・予算と比べ、差が出た科目の理由を確かめる作業です。
月次決算の分析とは、締めた月の損益と残高をほかの月や計画と比べ、差の理由を確かめて次の打ち手を決める作業です。
分析に使ってよいのは、照合と月割り計上を終えた試算表だけです。見分け方は月次決算と試算表の違いにまとめています。
中小機構のJ-Net21も、中小会計要領の解説で、経営状況を適切に把握するために記帳が重要だとしています。分析の土台は記帳です。
| 比べ方 |
比べる相手 |
分かること |
弱いところ |
| 前月比 |
1つ前の月 |
急な変化 |
季節の波も変化に見える |
| 前年同月比 |
去年の同じ月 |
季節の波を除いた伸び |
前年の数字が締め後でないと使えない |
| 予算実績比 |
その月の予算 |
計画とのずれ |
予算が無い会社では使えない |
3つは役割が違うため、1つだけで判断しないでください。予算をまだ作っていない会社は、前月比と前年同月比の2つから始めて構いません。
分析する科目はどう絞り込む?
分析する科目は、全科目から「差が大きい科目」「理由を説明できない科目」の順に絞り、最後に打ち手を決める科目だけを残します。
分析する科目の絞り込み方
絞り込みは4段階です。すべての勘定科目、3つの比較で差が大きい科目、理由をすぐ説明できない科目、打ち手を決める科目の順に進めます。
「差が大きい科目」とは、金額の線と割合の線の両方を超えた科目のことです。この2本の線は、分析の前に先に決めておくのが当社の判断です。
割合の線だけだと、小さな科目のわずかな増減まで拾ってしまいます。金額の線だけだと、売上の小さい月の変化を見落とします。
金額の線は、月の売上に対して「見落とすと資金繰りに響く額」を基準に、自社で決めます。割合の線は、前年同月と並べて、毎月ふつうに動く幅を超えたところに置きます。
線の数字は会社の規模で変わります。例えば、月の売上の1%以上で、かつ前年同月より20%以上動いた科目だけを拾う、と決める形です。これは当社が測った基準ではなく、考え方を示す仮の数字です。
前年の数字が無い創業間もない会社は、前月比だけで始めます。前年同月が出そろう1年後から、前年同月比を足してください。決めた線は数か月は変えず、拾いすぎや見落としが出たときだけ見直します。当社は補助金を使った会計ソフトの導入支援で、基準を決めずに眺めて止まる会社を多く見てきました。
理由をすぐ説明できる差は、そこで外してください。たとえば「大口の受注が入った」と分かっている売上の増加です。残った科目にだけ時間を使うと、毎月続けられる量に収まります。
会社の状態で最初に見る数字は変わる
最初に見る数字は会社の状態で選び、資金繰りが不安なら残高、利益が残らないなら率、締めが遅いなら締め日を先に見ます。
あわせて請求書の仕訳で金額が合わない5つの場面もご覧ください。
会社の状態ごとに最初に見る数字
資金繰りが不安な会社は、損益より先に現預金と売掛金の残高を見てください。利益が出ていても、入金が遅れていれば現金は減ります。
売上は伸びたのに利益が残らない会社は、粗利率と固定費を見ます。売上の額ではなく、率の変化に原因が出るためです。
資金繰り、利益、締めの3つの状態のうち2つ以上に当てはまる会社は、締め、資金繰り、利益の順に手を付けてください。遅い数字では資金繰りも利益も判断できないためです。
見たあとの打ち手は、数字ごとに分かれます。
- 入金が遅れているなら、請求書の発行日と回収条件を見直し、遅れている取引先から先に連絡します。
- 粗利率が下がっているなら、仕入単価の上昇、値引きの増加、原価の計上漏れの順に確かめます。単価が原因なら価格改定を、計上漏れなら仕訳を直します。
- 固定費が増えているなら、増えた科目が一時的か続く支出かを分け、続く支出だけを削る候補にします。
締めが月の後半にずれ込む会社は、分析より先に締めを早めてください。20日に届いた数字では、その月の打ち手にもう間に合いません。締めを早める方法は月次決算の早期化とは?中小企業ができる5つの方法にあります。
分析を始めない方がよい場合
締め日が毎月ばらつく会社は、比較の土台がそろいません。締め日が決まるまでは、分析の表を作り込まないでください。先に締め日を1つに決めるほうが効きます。決め方は、直近の数か月で最も遅れた月の締め日を確認し、その日までに照合を終えられる日を翌月の締め日にすることです。その日を数か月守れてから、早める日を考えます。取引が月に数件しかない会社も、表は作らず通帳と試算表を見れば足ります。予算が無い会社は、予算実績比を外して始めてください。
接待交際費を分析の前に確かめる理由
接待交際費は会議費などとの区分が揺れやすい科目で、付け替えだけで前月比が動くため、分析の前に仕訳を確かめます。
たとえば、取引先との飲食を、ある月は会議費で処理し、次の月は接待交際費で処理したとします。支出の内容は同じでも、会議費は減って接待交際費は増え、前月比では「交際費が急増した」ように見えます。
私たちが建設業の会社3社の経理代行で、実際に直した仕訳の誤りは接待交際費の扱いでした(2026年10月時点、3社の担当を通して)。件数や金額は集計していないため、数字は示しません。
直した中身は、会議費と接待交際費の区分です。当社が接待交際費を先に確かめるのは、この3社で、付け替えの誤りが前月比の動きに直結したためです。確かめ方は、領収書や精算書で参加者と人数を見て、社外の人がいるか、1人当たりの額はいくらかを分けることです。
仕訳の直し方は、区分を誤った月の仕訳を、正しい科目へ付け替えることです。例えば、会議費で処理した社外の人との飲食なら、借方を会議費から接待交際費へ振り替え、貸方は元のままにします。
別の集計として、2023年4月から2026年9月までに経理代行で担当した7社で、実際に直した仕訳の誤りは年間約90件でした。多い順に、外注費と給与の区分が約40件、備品の消耗品処理が約25件、前払費用の計上漏れが約15件、源泉徴収の漏れが約10件です。
この7社の内訳に接待交際費は出てきません。ただ、区分の誤りが前月比を動かす点は、外注費と給与の区分でも同じです。建設業の経理の流れは建設業の経理のやり方で解説しています。
接待交際費は、AIの答えでも手薄な論点でした。当社調べでは2026年11月に、2つのAI(ChatGPT・Gemini)へ本記事の論点5問を質問し、答え6件を得ました。ほかの論点を聞いた答え5件のうち、『接待交際費』に触れたものは0件でした。
同じ調べでは、6件の答えのうち、専門家への相談に触れたものは0件でした。期間に触れたものは2件、注意点・失敗・リスクに触れたものは4件でした。
区分が揺れる理由の1つは、税務の基準です。国税庁のタックスアンサー No.5265では、1人当たり10,000円以下の飲食費は交際費等から除かれます。ただし、社内の人だけの飲食は除外の対象外です。この基準は2024年4月1日以後の支出に当てはまり、それ以前は5,000円以下でした。
同じページでは、期末資本金1億円以下の法人などの定額控除限度額を年800万円(事業年度の月数で按分)としています。交際費の合計は、決算の税額にも響く数字です。
税務の判断は、次のように分けてください。社外の人との飲食で、1人当たり10,000円以下かつ参加者が分かる記録があるなら、自社で区分を決めてよいです。社内の人だけの飲食や、金額の線上で迷う支出は、税理士に聞いてください。
だから分析の前に、交際費と会議費の間で付け替えが無いかを確かめてください。科目の誤りを直してから比べると、前月比の差が業績の変化かどうかを読み分けられます。
月次決算の分析でよくある失敗と避け方
よくある失敗は、締める前の試算表で比べることと、前月比だけで異常と決めることの2つで、どちらも比べる土台の誤りです。
月次決算の分析でよくある取り違え
締める前の試算表で比べると、賞与を払った月だけ利益が大きく落ち、経費を慌てて止める事態になります。原因は、賞与を12分の1ずつ入れる月割り計上が抜けた試算表で比べたことです。避け方は、締め後の試算表だけを分析に使うと決めることです。
前月比だけで異常と決めると、毎年同じ月に増える売上や経費を「異常」として調べ直す事態になります。原因は、前月比だけを見て季節の波を外していないことです。避け方は、前月比で差が出た科目を、前年同月比でも確かめることです。
分析の結果を社長や金融機関に伝える書き方は、月次決算報告書の書き方にまとめています。
分析を自社でやるか、外に任せるか
月次決算の分析は自社で行い、締めが遅れて試算表が毎月同じ日に出ないときだけ、記帳と締めの作業を外に任せます。
分析そのものは自社に残すべき仕事です。打ち手を決めるのは、事業を知っている社内の人だからです。外に任せられるのは、分析の土台になる記帳・照合・月割り計上です。分け方の全体はBPO事務で失敗しない分け方にあります。
経理代行を担当した9社では、月次の締めが平均で翌月20日から翌月8日に、約12日早まりました(2023年4月〜2026年9月。最も早い会社は翌月5日)。2023年4月から2026年9月までに経理代行・記帳代行を担当した会社は48社で、そのうち31社は継続中です。9社は48社の一部で、全社の平均ではありません。個社差が大きい数字です。締めが早まった分だけ、分析に使える日数が月の中に残ります。
当社には、経理担当が離職した大手コンサル会社から、経理BPOを導入したいという問い合わせがあり、契約を結びました。担当者が辞めると、締めの手順と一緒に分析の習慣も途切れやすくなります。退職直後の対応は経理担当者の退職対応にあります。
仕組みと費用は経理BPOとは?メリット3つと費用相場で解説しています。
当社には、手がいっぱいの税理士事務所から、業務を分担できないかという問い合わせがあり、業務を分担する提携を結びました。記帳や照合を分けると、税理士は分析と助言に時間を使えます。
委託先を探すときは、AIの答えの出典も参考になります。当社は2026年10月に、2つのAI(ChatGPT・Claude)へ経理代行・記帳代行に関する質問を50問聞き、答えの出典668件を種類ごとに数えました(業種調査)。
業種調査の結果では、経理代行会社を探す質問への答えの出典は、28.8%が比較・紹介サイト、56.1%が経理代行会社の公式サイトでした。費用・選び方・税理士との違い・依頼できる範囲を調べる質問では、回答の85.0%が経理代行会社の公式サイトを1つ以上出典にしていました。公式サイトの料金や範囲を直接見て比べるのが近道です。
自社でやるか外に任せるかは、次の3つで判断します。
- 記帳や入力に月20時間以上かかっているなら、委託を検討します。銀行・カード連携に切り替えた15社(2023年4月〜2026年9月)で、入力が月平均20時間から6時間になったためです。20時間は委託すべき水準の統計ではなく、連携前の平均を基にした当社の判断です。
- 担当が一人だけで、休むと締めが止まるなら、委託を検討します。
- 取引が月に数件で、社長自身が通帳と試算表を毎月見て判断できているなら、外部委託は向きません。自社と税理士だけで足ります。
記帳に月20時間以上かかり、かつ担当が一人だけなら、見積もりを取ってください。どちらか1つだけなら、まず自社で銀行・カード連携の設定を見直します。両方に当てはまり、さらに締めが翌月の後半にずれ込むなら、締めの作業から先に任せます。
費用は取引の量と範囲で変わるため、目安の金額は置きません。仮に月20時間の作業を委託するなら、その20時間分の社内の手間と、見積もりの範囲を並べて比べてください。連携で入力が月6時間まで減る場合は、委託で減る時間が残りの6時間分に限られる点も見積もりに反映します。予算が取れない場合は、委託せず連携の設定だけ見直す判断も成り立ちます。
よくある質問
月次決算の分析は何と何を比べればよいですか?
締め後の試算表を、前月・前年同月・予算の3つと比べます。差の大きい科目から理由を確かめてください。
分析はどこまで自社でできますか?
会計ソフトの推移表で3つの比較は自社でできます。記帳に月20時間以上かかり担当が一人なら委託を検討します。
経理BPOに頼むと分析の何を任せられますか?
記帳・残高照合・月割り計上を任せ、毎月同じ日に締め後の試算表を受け取れます。打ち手の判断は自社に残ります。
外に任せると、締めはどのくらい早まりますか?
担当した9社では、締めが平均で翌月20日から8日へ約12日早まりました。48社全体の平均ではありません。
経理の外部委託が向かないのはどんな会社ですか?
取引が月に数件で、社長自身が通帳と試算表を毎月見て判断できている会社は、自社と税理士だけで足ります。
接待交際費を分析の前に確かめるのはなぜですか?
会議費などとの区分が揺れやすく、科目の付け替えだけで前月比が大きく動くためです。税務の扱いにも響きます。
まとめ: 締め後の数字を3つと比べ、差の理由から決める
月次決算の分析方法は、締め後の試算表を前月・前年同月・予算と比べ、差の大きい科目の理由を確かめることです。科目は4段階で絞り、会社の状態に合う数字から見てください。
前年と予算の有無で、今日始める比べ方は次のように分かれます。
| 前年の締め後の試算表 |
予算 |
今日の比べ方 |
| ある |
ある |
前月・前年同月・予算の3つ |
| ある |
無い |
前月と前年同月の2つ |
| 無い |
ある |
前月と予算の2つ |
| 無い |
無い |
前月だけ。分析の表は作り込まない |
今日できる一歩は、会計ソフトの月次推移表(名称はソフトで異なります)で、直近の締め後の月と前年同月を並べ、差が大きい科目を3つ書き出すことです。前年が無い会社は、前月の試算表と並べてください。差の線は、金額と割合の両方で先に決めてください。仮に売上の1%以上かつ前年同月比20%以上と置けば、迷わず拾えます。決められないときは、前年同月と並べて、毎月ふつうに動く幅を超えた科目から始めれば足ります。
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