経理アウトソーシングの導入事例は、記帳・請求書発行のみを委託するパターン、月次決算まで範囲を広げるパターン、経理担当者の退職を機に全面委託するパターンの3つに大別できます。自社の状況に近いパターンを知ってから検討すると、委託範囲や期間の見通しが立てやすくなります。本記事では3パターンの特徴と向いている会社の条件、事例選びで確認すべき3つの軸を解説します。
この記事は、経理アウトソーシングの導入を検討していて、自社に近い事例を知ったうえで委託範囲を判断したい中小企業の経営者・管理部門責任者向けです。
※ 2026年8月時点の情報です。
この記事でわかること
- 経理アウトソーシング導入事例のよくある3パターン
- 各パターンに向いている会社の条件
- 自社に近い事例を選ぶための3つの確認軸
- 事例から学ぶ失敗しやすい進め方
経理アウトソーシング導入事例の全体像|よくある3つのパターン
経理アウトソーシングの導入事例は、委託する業務範囲の広さによって3つのパターンに分かれます。
関連する内容として経理外注の依頼先|記帳代行センターと税理士の違い5つも公開しています。
選ぶときの基準については、記帳代行のアウトソーシング活用にまとめています。
経理アウトソーシングとは、記帳や請求書発行などの定型業務から月次決算まで、経理業務の一部または全部を外部の専門会社に委託することです。委託範囲は会社によって大きく異なり、範囲の決め方が導入後の満足度を左右します。
経理アウトソーシングの基本は、経理BPOとは?メリット3つと費用相場をわかりやすく解説で詳しく解説しています。
経理アウトソーシング導入事例のよくある3パターン
3パターンは、委託範囲が狭い順に「記帳のみ」「月次決算まで」「全面委託」と並びます。委託範囲が広いほど、社内に残る業務は少なくなりますが、引き継ぎに必要な準備も増えます。
自社がどのパターンに近いか判断がつかない場合は、経理外注の判断基準5つ|自社に向いているかのチェックリストで外注の向き不向きを先に整理しておくと、パターン選びに入りやすくなります。
M&Iリサーチセンターが2025年8月に発刊したバックオフィス業務ビジネスプロセスサービス市場の調査があります。この調査では、同市場は2024年度の5,778億円から2029年度には7,987億円へ拡大すると予測されています。委託先の選択肢が増えているぶん、自社に近いパターンを先に把握しておく価値は大きくなっています。
パターン1: 記帳・請求書発行のみを委託した事例
パターン1は、経理担当者を社内に残しつつ、記帳と請求書発行だけを外部に委託する形です。
このパターンに多いのは、経理担当者が1人しかおらず、月次決算や資金繰りの判断は自分で行いたいが、記帳や請求書発行の作業時間を減らしたいという会社です。定型作業だけを切り出すため、委託範囲の線引きがしやすく、導入までの準備期間も比較的短く済みます。
私たちが会計ソフトの導入支援でご一緒した会社でも、まず記帳だけを外部委託し、慣れてから範囲を広げるという進め方を選ぶケースをよく見かけます。いきなり全業務を任せるより、小さく始めて委託先との相性を確認できるという利点があります。
一方で、記帳のみの委託では、月次決算の精度や資金繰りの判断は引き続き社内の経理担当者に依存します。属人化そのものは解消されないため、担当者が不在になった場合のリスクは残ります。
経理の属人化に課題を感じている場合は、経理の属人化を解消する5つの方法|原因とリスクも解説もあわせて確認してください。
このパターンの費用感は、仕訳数や請求書の発行件数に応じた月額制が一般的です。記帳のみの委託であれば、他のパターンより費用を抑えやすい傾向があります。委託開始後も、繁忙期だけ範囲を広げるといった柔軟な調整ができるかを、契約前に確認しておくと安心です。
よくある例は、従業員20名前後の製造業で経理担当が1名のケースです。日々の記帳と請求書発行に追われ、資金繰りの検討に時間を割けないという相談から、記帳のみの委託を検討し始めるパターンが典型的です。委託後は、担当者が資金繰りや税理士とのやり取りに時間を使えるようになります。
パターン2: 月次決算まで範囲を広げて委託した事例
パターン2は、記帳・請求書発行に加えて、月次試算表の作成まで委託範囲を広げる形です。
このパターンは、経理担当者が退職予定、あるいは他部署との兼務で経理に十分な時間を割けない会社に多く見られます。月次決算まで委託すると、経営判断に必要な数字が毎月決まったタイミングで届くようになります。社内に経理の専任者がいなくても、月次の状況把握ができる状態を維持できます。
委託範囲が広がる分、契約前の相見積もりでは、月次試算表の提出タイミングや、資金繰りに関する相談対応の有無を確認しておく必要があります。会社によって対応範囲の線引きが異なるため、費用だけで比較すると想定外の追加費用が発生することがあります。
費用の内訳は、経理アウトソーシングの費用相場【2026年】内訳と抑え方で詳しく比較しています。
注意: 対応範囲の線引きを事前に確認する
月次決算まで委託する契約でも、資金繰りの相談や税理士とのやり取りが対応範囲に含まれるかは会社ごとに異なります。見積もり段階で「どこまで相談できるか」を具体的に確認しておかないと、契約後に別料金を請求されることがあります。
このパターンでは、委託先から届く月次試算表を経営会議の資料としてそのまま使えるかも確認ポイントです。フォーマットが自社の会議資料と揃っていれば、加工の手間をかけずに経営判断へ活用できます。税理士との連携体制も、契約前にすり合わせておくと二度手間を防げます。
よくある例は、従業員30〜50名規模のサービス業で、経理担当が他部署と兼務しているケースです。月次決算がたびたび遅れ、資金繰りの判断が後手に回っていたところから、決算まで含めて委託する検討が始まります。委託後は、毎月決まった時期に試算表が届く体制に変わります。
パターン3: 経理担当者の退職をきっかけに全面委託した事例
パターン3は、経理担当者の退職や休職をきっかけに、記帳から月次決算まで経理業務全般を委託する形です。
株式会社kubellパートナーが2026年4月29日〜5月8日に実施した中小企業のバックオフィス担当者向け調査があります。対象は従業員300名未満の企業のバックオフィス担当者86名です。この調査では、82.6%が担当者の退職・休職で業務継続に「何らかの影響がある」と回答しています。さらに44.2%が「事業継続に重大な支障または大きな混乱が生じる可能性がある」と回答しました。
退職が決まってから委託先を探し始めると、引き継ぎ期間が十分に取れず、業務の空白期間が生じるリスクがあります。退職者本人からの引き継ぎが間に合わない場合、業務フローの再現に時間がかかる傾向があります。
引き継ぎの進め方は、経理外注の引き継ぎ|必要資料と失敗しない5ステップ【2026年】で具体的に解説しています。
私も委託先選定の相談を受けた際、退職の1か月前に相談が来た会社と、退職の3か月前から動いていた会社とでは、引き継ぎ資料の完成度に明らかな差があると感じたことがあります。早めに動き出した会社ほど、業務フローを言語化する時間を確保できていました。
よくある例は、従業員10名前後の会社で、唯一の経理担当者から退職の申し出があったケースです。後任を採用する時間的な余裕がなく、退職までの1〜2か月で全面委託への切り替えを進めることになります。退職者本人からのヒアリング時間を確保できるかどうかで、引き継ぎの進みやすさが変わります。
3つの事例に共通する導入前のつまずきポイント
3パターンに共通して起きやすいのが、委託範囲の認識違いと引き継ぎ準備の不足です。
同じkubellパートナーの調査では、55.8%がバックオフィスの「属人化・ブラックボックス化」を課題と回答しています。属人化が進んでいる会社ほど、業務フローが文書化されておらず、委託先への引き継ぎに時間がかかる傾向があります。
パーソルビジネスプロセスデザインが2025年2月に実施した中小企業のBPO活用実態調査があります。対象は従業員300人未満の経営層・管理職550名です。この調査では、BPOを導入している中小企業は12.9%にとどまり、導入企業のうち経理・財務業務を委託しているのは29.6%でした。委託先を探す前に、自社の業務が言語化されているかを確認しておくことが大切です。
当社は補助金を使った会計ソフト・受発注ソフトの導入支援を手がけており、中小企業が経理業務のどこでつまずくかを申請の現場で見てきました。業務フローが担当者の頭の中だけにある会社ほど、ソフト導入や委託先への切り替えに時間がかかるという共通点があります。
自社に近い事例を選ぶための3つの確認軸
自社に近い事例を選ぶには、委託したい業務範囲・経理担当者の人数・使っている会計ソフトの3軸で比較します。
自社に近い事例を選ぶ3つの確認軸
1つ目は委託したい業務範囲です。記帳のみか、月次決算までかで、向いているパターンが変わります。2つ目は経理担当者の人数です。専任者が1人しかいない会社は、退職リスクを見越して早めに委託を検討する価値があります。
3つ目は使っている会計ソフトです。委託先が対応しているソフトと自社のソフトが一致していれば、データ移行の手間を減らせます。対応していない場合は、ソフトの乗り換えも含めて検討が必要です。
3軸のうち1つでも自社の状況と大きくずれている場合は、その事例をそのまま真似るのではなく、委託範囲を自社向けに調整する前提で相談するとよいでしょう。事例はあくまで参考であり、そのまま当てはめる必要はありません。委託先との打ち合わせで、自社の条件に合わせた微調整ができるかを確認してください。
委託先の比較軸をさらに詳しく知りたい場合は、経理代行の選び方5選|比較軸と契約前チェックリストで5つの軸に分けて整理しています。
3軸の目安を、記帳のみ委託のパターン1・月次決算まで委託のパターン2・全面委託のパターン3で一覧にすると、次のとおりです。
| 確認軸 |
パターン1向き |
パターン2向き |
パターン3向き |
| 委託範囲 |
記帳・請求書発行のみ |
記帳〜月次決算まで |
経理業務全般 |
| 経理担当者 |
1人在籍・時間を減らしたい |
兼務・決算が遅れがち |
退職予定・不在 |
| 準備期間 |
数週間程度 |
3〜4週間程度 |
1〜2か月以上 |
事例から学ぶ、失敗しやすい導入の進め方
事例に共通する失敗は、委託範囲を決めずに依頼し、比較せず1社で即決してしまうことです。
事例に学ぶ、導入の進め方の違い
1つ目は、委託範囲を口頭確認だけで進め、契約後に対応外の業務があったと気づくケースです。回避策は、委託したい業務を書面にまとめてから相見積もりに進むことです。
2つ目は、社内の窓口担当者を決めずに導入を始め、委託先からの確認事項が放置されるケースです。窓口担当者は契約前に確定させておくと、引き継ぎがスムーズに進みます。
3つ目は、費用だけを比較して1社に即決し、後から対応範囲が想定より狭いと分かるケースです。最低3社に同条件で見積もりを依頼すると、費用と対応範囲の両方を客観的に比較できます。
デメリットや注意点は、経理アウトソーシングのデメリット6つ|失敗しない対策も解説でも整理しています。
4つ目は、社内の合意を取らずに担当者だけの判断で契約を進め、経営層から後になって差し戻されるケースです。委託範囲と費用感は、契約前に経営層と共有しておくと手戻りを防げます。
自社だけで比較の進め方が判断しづらい場合は、経理BPOの無料相談で、事例に近い進め方を一緒に確認することもできます。
どこから手をつけるべきかの整理は、経理の現状分析(無料)からご相談いただけます。ご契約を前提としたご案内ではありません。
よくある質問
経理アウトソーシングの導入事例にはどんなパターンがありますか?
記帳のみ委託、月次決算まで委託、退職を機に全面委託の3パターンに大別できます。
記帳代行のみを委託する場合、どんな会社に向いていますか?
経理担当者は残しつつ、定型的な記帳・請求書発行の負荷だけを減らしたい会社に向いています。
経理担当者が退職した場合、すぐに全面委託できますか?
引き継ぎ資料と業務の棚卸しがあれば、1〜2か月程度で全面委託への移行が可能です。
自社に近い事例はどう見分ければよいですか?
委託したい業務範囲・経理担当者の人数・使用中の会計ソフトの3軸で比較すると選びやすくなります。
導入事例からわかる失敗しやすい進め方は何ですか?
委託範囲を決めずに1社で即決し、引き継ぎ資料を準備しないまま移行する進め方です。
まとめ: 事例に近いパターンを知ってから委託範囲を決める
経理アウトソーシングの導入事例は、記帳のみ委託、月次決算まで委託、退職を機に全面委託の3パターンに大別できます。自社に近いパターンを先に把握しておくと、委託範囲や準備期間の見通しが立てやすくなります。
事例と自社の状況を照らし合わせるのが難しい場合は、経理BPOの無料相談で、委託範囲の切り分け方を一緒に整理することもできます。まずは自社がどのパターンに近いかを確認することから始めてください。
経理担当者の人数や業務量は会社の成長とともに変わるため、導入後も定期的に委託範囲を見直すことが欠かせません。事例選びの精度は、契約前にどれだけ自社の状況を言語化できたかで決まるもの。
3パターンのどれか1つに完全に一致する会社は、実際には多くありません。多くの会社は、複数のパターンの要素を組み合わせながら、自社に合う委託範囲を作っています。大切なのは、事例を型として押し付けるのではなく、自社の業務量と担当者の状況に合わせて範囲を調整することです。まずは自社の業務を棚卸しし、どのパターンに近いかを確認するところから始めてください。