建設業の経理のやり方は、工事ごとに原価を分けて集めることが軸です。一般の経理は会社全体で売上と費用を集計しますが、建設業では「どの工事で、いくら使ったか」を工事単位で追います。
違いは、勘定科目の名前・原価の4区分・売上の計上時期・決算変更届の4点です。この4点を押さえれば、一般の会計ソフトでも建設業の経理は回せます。
この記事は、建設業の会社で経理を担当することになった方や、経理を社内で回すか外に任せるか迷っている経営者向けです。
※ 2026年10月時点の情報です。国税庁・国土交通省・三重県の案内は2026年10月19日に確認しました。
この記事でわかること- 一般の経理と建設業の経理の4つの違い
- 建設業で使う勘定科目の読み替え
- 工事原価の4区分と、毎月の流れ
- 自社で回すか、外に任せるかの分かれ目
建設業の経理は何が違う?一般の経理との4つの差
建設業の経理は、科目の名前・原価の集め方・売上の時期・決算後の届出の4点が一般の経理と違います。
あわせて経理事務と経理補助の違いもご覧ください。
| 項目 |
一般の経理 |
建設業の経理 |
| 勘定科目 |
売上高・売掛金 |
完成工事高・完成工事未収入金 |
| 原価 |
会社全体で集計 |
工事ごとに4区分で集計 |
| 売上の時期 |
販売・提供の時点 |
引渡し時か工事の進み具合 |
| 決算後の届出 |
税務申告 |
税務申告と決算変更届 |
違いが生まれる理由は、建設業の仕事が「工事」という単位で動くからです。1つの工事が数か月かかることも珍しくありません。
そのため、月末の時点で「完成した工事」と「まだ途中の工事」が混ざります。途中の工事にかかった費用を、その月の費用にしないことが、建設業の経理の出発点になります。
建設業で使う勘定科目は?一般の科目との読み替え
建設業の勘定科目は、一般の科目の名前を「工事」に置き換えたもので、意味はほぼ対応しています。
建設業会計とは、建設業法施行規則の様式に合わせて、工事を単位に売上と原価を記録する会計のやり方です。決算変更届や経営事項審査に出す財務諸表も、この科目で作ります。
| 一般の科目 |
建設業の科目 |
中身 |
| 売上高 |
完成工事高 |
完成して引き渡した工事の代金 |
| 売上原価 |
完成工事原価 |
完成工事にかかった原価 |
| 売掛金 |
完成工事未収入金 |
完成工事の代金のうち未収の分 |
| 仕掛品 |
未成工事支出金 |
未完成の工事にかかった費用 |
| 前受金 |
未成工事受入金 |
完成前に受け取った工事代金 |
| 買掛金 |
工事未払金 |
工事の費用のうち未払いの分 |
科目の分類は、国土交通省の建設業法施行規則の様式の勘定科目の分類を定める告示で決められています。
一般の科目のまま入力を始めると、決算のときに科目を組み替えることになり、二度手間です。最初に科目を建設業用に設定しておくのが近道です。
工事ごとの原価はどう集める?材料費・労務費・外注費・経費
工事原価は、材料費・労務費・外注費・経費の4区分に分け、工事番号ごとに集めます。
4区分の中身は、次のとおりです。区分は国土交通省の告示に沿っています。
- 材料費: 工事に使う資材・部品の費用
- 労務費: 工事に携わった自社の作業員の給与
- 外注費: 工事の一部を下請業者に任せた支払い
- 経費: 上の3つ以外で、その工事にかかった費用
決算変更届では、法人は貸借対照表(様式第15号)と損益計算書(様式第16号)に加え、完成工事原価報告書を出します。報告書は、この4区分で原価を示す書類です。
工事ごとに集めるには、工事番号を全ての請求書と領収書に書く決まりが要ります。会計ソフトの部門やプロジェクトの機能に工事番号を登録すると、工事別の原価が自動で集計されます。
当社は補助金を使った会計ソフト・受発注ソフトの導入支援を手がけています(2026年8月時点)。工事番号を決めないまま入力を始めると、後から工事別の原価を出せません。番号の付け方は、ソフトの設定より先に決めてください。
売上はいつ計上する?工事完成基準と工事進行基準
売上の計上は、引渡し時に計上する工事完成基準か、進み具合に応じて計上する工事進行基準のどちらかです。
工事完成基準では、工事が完成して引き渡した時点で、売上と原価をまとめて計上します。途中の費用は、引渡しまで未成工事支出金に置いておきます。
工事進行基準では、工事の進み具合に合わせて、期ごとに売上と原価を分けて計上します。進み具合を見積もる手間がかかります。
法人税法では、次の3つを満たす長期大規模工事に、工事進行基準が強制されます(法人税法第64条)。
- 着手から引渡しの期日までが1年以上
- 請負の対価の額が10億円以上
- 対価の2分の1以上を、引渡しの期日から1年を過ぎた後に払う定めがない
要件は国税庁の文書回答事例(長期大規模工事)でも確かめられます。長期大規模工事に当たらない工事は、工事完成基準で処理できます。どちらを使うかは、顧問の税理士と決めてください。
建設業の経理の毎月の流れ
建設業の経理は、工事番号を振る作業から工事台帳と試算表の照合まで、5つの作業を毎月繰り返します。
あわせて月次決算はいつまでに終えるかもご覧ください。
- 新しく受けた工事に工事番号を振る
- 下請業者や資材の請求書を、工事番号ごとに集める
- 原価を材料費・労務費・外注費・経費に分けて入力する
- 月末に、未完成の工事の費用を未成工事支出金に残す
- 工事台帳の合計と、試算表の数字が合うか照合する
止まりやすいのは、2番目の請求書の回収です。下請業者の請求書が月末を過ぎて届くと、その月の原価が確定しません。
月末に未完成の工事の外注費をどう振り替えるかは、建設業の外注費の仕訳で仕訳例つきで解説しています。
請求書の締め日と提出日を、下請業者との取り決めに入れておくと、毎月の締めが安定します。締めを早める方法は、月次決算の早期化とは?中小企業ができる5つの方法で詳しく解説しています。
建設業の経理で起きやすい失敗と避け方
失敗は、原価の付け替え、前受金の売上計上、決算変更届の出し忘れの3つに集中します。
失敗1: 原価を別の工事に付け替えてしまった
起きたことは、利益が出た工事の原価を赤字の工事に回し、工事ごとの採算が分からなくなったことです。原因は、工事番号の無い請求書を「近い工事」に入れていたことです。
避け方は、工事番号の無い請求書を入力しないことです。番号が無いものは差し戻して、確認してから入力します。
失敗2: 完成前に受け取った代金を売上にした
起きたことは、着手金をその月の売上に入れ、利益が実際より大きく見えたことです。原因は、未成工事受入金の科目を使っていなかったことです。
避け方は、完成前の入金を未成工事受入金に入れ、引渡しの月に完成工事高へ振り替えることです。
失敗3: 決算変更届の期限を過ぎた
起きたことは、税務申告だけで決算が終わったと考え、決算変更届を出していなかったことです。建設業許可を持つ会社は、事業年度の終了後4か月以内に届け出ます(建設業法第11条第2項)。
避け方は、決算の日程表に決算変更届の期限を入れることです。必要な書類は、三重県の決算変更届の案内のように許可行政庁が示しています。届出の作成は行政書士の業務なので、頼む場合は行政書士に依頼します。
自社で回すか、外に任せるか?
工事が少なく社長が原価を把握できているなら自社で回し、工事が並行して増えたら外に任せるのが分かれ目です。
関連する内容として行政書士の記帳代行の相場は?も公開しています。
| 会社の状態 |
合うやり方 |
| 工事が少なく、社長が全工事の原価を把握している |
自社で記帳する |
| 工事が並行して増え、締めが翌月の後半にずれ込む |
記帳と原価の集計を外に任せる |
| 経理が1人で、その人が休むと止まる |
手順を書き出し、外の手も借りる |
外に任せる場合でも、工事番号を振る作業と請求書の回収は社内に残ります。現場と経理をつなぐ作業は、外に出せません。任せられるのは、記帳・原価の集計・試算表の作成です。
経理代行を担当した9社では、月次の締めが平均で翌月20日から翌月8日に、約12日早まりました(2023年4月〜2026年9月。最も早い会社は翌月5日)。2023年4月から2026年9月までに経理代行・記帳代行を担当した会社は48社で、そのうち31社は継続中です。個社差が大きい)。2023年4月から2026年9月までに経理代行・記帳代行を担当した会社は48社で、そのうち31社は継続中です。
どちらの数字も、建設業に限った集計ではありません。外に任せる範囲は記帳代行とは?できる範囲と失敗しやすい3つの落とし穴で、費用の目安は記帳代行の費用相場で整理しています。
よくある質問
建設業の経理は自分たちだけでできますか?
できます。工事番号ごとに原価を分けて入力する決まりを先に作れば、一般の会計ソフトでも回せます。
建設業の経理を外に頼むと、何をしてもらえますか?
記帳、工事別の原価の集計、試算表の作成を任せられます。税務申告は税理士、決算変更届は行政書士の業務です。
経理を外に任せると、どのくらいで変化が見えますか?
当社が経理代行を担当した9社では、月次の締めが平均で翌月20日から翌月8日に早まりました。個社差は大きいです。
建設業の経理を外に任せないほうがよいのはどんな場合ですか?
工事の数が少なく、社長が全工事の原価を把握できている場合です。自社で記帳するほうが手間も費用も少なく済みます。
決算変更届はいつまでに出しますか?
建設業許可を持つ会社は、事業年度の終了後4か月以内に提出します。根拠は建設業法第11条第2項です。
まとめ: 建設業の経理は工事番号から始める
建設業の経理のやり方は、工事ごとに原価を4区分で集め、完成した工事だけを売上と原価にすることです。科目の名前・売上の時期・決算変更届の違いも、この考え方から生まれています。
今日できる一歩は、進行中の工事を書き出し、1件ずつ工事番号を振ることです。番号が決まれば、請求書の集め方と会計ソフトの設定が決まります。
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