経理の業務フローチャートとは、記帳・請求書処理・支払い・月次決算といった一連の手順を、担当者・作業内容・分岐を記号と矢印でつないで1枚の図に示したものです。いきなり清書用のきれいな図を描こうとすると、途中で手が止まって完成しないことがよくあります。本記事では、書く前に準備する2つのこと、迷わず描ける4ステップ、フローチャートを2回に分けて作るべき理由、見やすくする3つのコツ、経理特有で描き込むべきポイント、よくある失敗例まで解説します。
この記事は、経理の業務フローチャートを初めて自分の手で描くことになった中小企業の経営者・管理部門責任者向けです。
※ 2026年9月時点の情報です。
この記事でわかること
- 書く前に準備しておく2つのこと
- 迷わず描ける経理フローチャート4ステップ
- フローチャートを2回に分けて作るべき理由
- 見やすくする3つのコツと経理特有の注意点
経理の業務フローチャートとは?記号の基本
経理の業務フローチャートとは、記帳から支払いまでの手順を、担当者・作業・分岐を記号でつないで示した図です。
業務フローチャートとは、四角(作業)とひし形(判断・分岐)を矢印でつなぎ、誰が・いつ・何を・どの順番で行うかを表した図のことです。経理では、担当者が変わっても同じ手順で処理を回せることが目的になります。
記号の詳しい種類や、業務別に使えるひな形は経理の業務フローテンプレート4選|使い方3ステップも解説にまとめています。本記事では、記号の種類そのものより、白紙の状態から迷わず1枚を描き上げるまでの手順に絞って解説します。
私たちも、補助金を使った会計ソフト・受発注ソフトの導入支援を手がける中で、中小企業が経理業務のどこでつまずくかを申請の現場で見てきました。手順が図になっていない会社ほど、担当者への口頭確認に多くの時間を取られています。
フローチャートを描く目的は、きれいな図を完成させることではありません。担当者が休んでも、新しく入った人でも、図を見れば同じ手順で処理できる状態を作ることが目的です。目的を見失うと、記号の正確さにこだわりすぎて、肝心の完成まで進まなくなります。
帝国データバンクが2026年2月20日に公表した「人手不足に対する企業の動向調査(2026年1月)」(有効回答1万620社)では、正社員の人手不足を感じている企業が52.3%にのぼりました。人が足りない状況ほど、担当者以外にも分かる図の有無が現場を左右します。
経理の業務フローチャートを書く前に準備する2つのこと
書く前に、対象業務の範囲を1つに絞ることと、作業を情報整理表に書き出すことの2つを済ませます。
第一に、対象業務を1つに絞ります。「経理全体」のように範囲が広いままだと、どこから手をつければよいか分からず、着手する前に諦めてしまいます。記帳・支払い・月次決算のうち、最も質問が集中している業務を1つだけ選んでください。
第二に、作業を情報整理表に書き出します。順番を気にせず、対象業務で実際に行っている作業を箇条書きにします。誰が・何を・いつ行っているかを、担当者に直接聞きながら埋めていくと、マニュアルに載っていない作業が見つかることがあります。
この2つを飛ばしていきなり図を描き始めると、途中で作業の抜けに気づいて描き直すことになります。準備の段階で情報を整理しておくほど、次のステップでの手戻りが減ります。準備にかける時間は、対象業務が複雑でなければ30分程度で十分です。
準備の段階では、完璧な一覧を目指す必要はありません。抜けている作業は、次のステップで実際に図にしてみたときに気づくことも多いためです。情報整理表は、後から書き足すことを前提にした「たたき台」として扱ってください。たたき台の時点で止まってしまうより、多少粗くても次のステップに進むほうが、結果的に完成が早まります。
経理の業務フローチャートを作る4ステップ
経理の業務フローチャートは、対象業務の決定・書き出し・図化・現場確認という4ステップで完成します。
経理の業務フローチャートを作る4ステップ
ステップ1: 対象業務を1つ決める
前章の準備で絞り込んだ対象業務を、そのままステップ1として確定させます。「支払い業務のうち請求書受領から振込まで」のように、開始点と終了点まで具体的に決めておくと、後の工程で範囲がぶれません。
ステップ2: 作業を書き出して整理する
対象業務の作業を、担当者・作業内容・使用する書類やシステムの3項目で一覧にします。この段階では図の見た目を気にせず、表やメモの形で構いません。抜けを防ぐコツは、時系列ではなく「誰が」で並べ替えて確認することです。担当者ごとに見ると、作業の重複や漏れに気づきやすくなります。
ステップ3: 記号で図にする
整理した作業を、開始→作業→分岐→終了の順に記号へ変換します。四角は作業、ひし形は承認や確認などの分岐、矢印は流れの向きです。最初から全ての記号を使い分けようとせず、四角とひし形の2種類だけで8割は表現できます。細かい記号の使い分けに迷ったら、いったん省略して先に進めてください。
ステップ4: 現場で確認し直す
描き上げた図を、実際にその業務を担当している人に見せて確認します。自分の理解だけで完成させると、現場の実態とずれた図になりがちです。確認の際に出た修正点をその場で反映すれば、初回から使える図に近づきます。
経理の業務フローチャートを2回に分けて作るべき理由
経理の業務フローチャートは、担当者が理解するための下書きと、現場で使う清書の2回に分けて作ると失敗しません。
多くの人が、フローチャートは1回できれいに完成させるものだと思い込んでいます。ですが最初から清書を目指すと、記号の正確さや見た目にこだわって手が止まり、結局お蔵入りになってしまうケースが少なくありません。
1回目は、担当者自身が業務を理解するための下書きです。裏紙のメモや箇条書きの一覧表で十分で、記号にこだわる必要はありません。この段階の目的は、業務の全体像と分岐する箇所を自分の頭の中で整理することにあります。
2回目は、現場のメンバーに共有するための清書です。初めてその図を見る人でも、抵抗なく直感的に分かる表現に整えます。1回目で理解した内容があるからこそ、2回目の清書は迷わず短時間で仕上がります。
2段階に分ける効果は、完成までのハードルを下げることにもあります。「まず下書きでいい」と思えるだけで、着手を先延ばしにする理由がなくなります。一度で完璧を目指すより、2回に分けたほうが結果的に早く形になります。
業務マニュアルの専門家として発信しているナビゲート・神村氏の解説動画でも、フロー図はインプット用とアウトプット用の2段階で作るべきだと述べられています。私たちが経理支援の現場で感じてきたこととも重なる指摘です。
| 項目 |
1回目(下書き) |
2回目(清書) |
| 目的 |
担当者自身が業務を理解する |
現場メンバーへ共有する |
| 形式 |
メモ・一覧表でも構わない |
記号を統一した図 |
| 完成度の目安 |
6割程度で十分 |
誰が見ても分かる状態 |
表からも分かる通り、1回目と2回目では目的も完成度の目安もまったく違います。同じ基準で1回にまとめようとすること自体が、フローチャート作りを難しくしている原因だといえます。
見やすい経理フローチャートにする3つのコツ
見やすいフローチャートは、記号の統一・担当者ごとの列分け・1枚1業務の3点で決まります。
見やすい経理フローチャートにする3つのコツ
1つ目は、記号の意味を最初に統一することです。四角は作業、ひし形は分岐というように意味を固定し、途中で変えないようにします。統一さえできていれば、正式な記号の規格に厳密に従う必要はありません。
2つ目は、担当者ごとに列(レーン)を分けることです。部署や役職ごとに縦の列を分けると、どこで作業が引き継がれているかが一目で分かります。承認者が複数いる支払い業務では、この効果が特に大きく出ます。
3つ目は、1枚に1つの業務だけを描くことです。記帳と支払いを1枚に詰め込むと、線が交差して読みにくくなります。業務ごとに図を分ければ、更新するときも該当の1枚だけ直せば済みます。
株式会社スタディストが2026年2月に調査を実施しました。「現場の非効率実態調査2026」(従業員300人以上の企業に勤める人など1,233名対象)では、文字だけのマニュアル・手順書を見て解決する人は25.7%にとどまりました。文字の説明より、図で流れを追えるほうが実際には理解されやすいことがうかがえます。
経理特有で描き込むべき3つのポイント
経理のフローチャートでは、承認経路・締め日・仕訳のタイミングの3つを必ず描き込みます。
第一に、承認経路です。誰が承認するか、承認者が不在のときはどうするかまで図に含めておくと、フローが止まる箇所を事前に把握できます。承認者を1人だけにせず、代理承認のルートも描いておくと、実際の運用で迷いません。
第二に、締め日です。月次決算に関わる工程には、いつまでに完了させる必要があるかを書き添えます。締め日を欠いた図の末路は、優先順位が伝わらないまま後回しにされる作業。
第三に、仕訳のタイミングです。証憑を受け取ってすぐ仕訳するのか、まとめて処理するのかによって、必要な確認作業が変わります。このタイミングを図に明記しておくと、引き継ぎの際に説明の食い違いが起きにくくなります。
MJS税経システム研究所は2024年6月、経理担当者362名を対象に調査を実施しました。「中小企業の経理担当者の働き方&実務の困りごと実態調査」では、仕事の悩みで最も多かった回答が「業務の属人化」で50.0%でした。承認経路・締め日・仕訳タイミングという判断に関わる情報こそ、属人化しやすい部分です。図に残すことで、この悩みに直接手を打てます。
すでに業務フローが存在していて、乱れや遅延に悩んでいる場合は、経理の業務フロー見直し3ステップ|属人化と遅延を防ぐから着手するほうが早く解決します。
経理の業務フローチャートでよくある失敗例
いきなり清書を描くことと、1枚に全業務を詰め込むことが、経理フローチャートの典型的な失敗です。
経理フローチャートのNGとOK
注意: いきなり清書から描き始めない
下書きを飛ばして最初から完成度の高い図を目指すと、細部にこだわって手が止まります。まず情報整理表かメモ書きで、業務の全体像を先に把握してください。
1枚に全業務を詰め込むのもよくある失敗です。記帳・支払い・月次決算をまとめて1枚に描こうとすると、線が複雑に交差し、誰にも読み解けない図になってしまいます。
記号を自己流で混在させることも、共有を妨げる原因のひとつ。同じ作業を四角で描いたりひし形で描いたりすると、読む人によって解釈が変わってしまいます。記号の意味は、図を描き始める前に決めておいてください。
私たちが中小企業の経理支援に携わる中でも、時間をかけて描いた図が結局誰にも使われなかったという相談を受けることがあります。原因の多くは、完成後に更新する担当を決めていないことです。業務の手順が変わるたびに図も直す前提で、更新担当をあらかじめ決めておきましょう。
完成した図を業務マニュアルとして整備し直したい場合は、経理マニュアルの作り方とは?属人化を防ぐ5つの手順が参考になります。
経理以外の部署も含めて業務フローを見直したい場合は、バックオフィス業務改善の4ステップ|進まない原因と対策もあわせてご覧ください。
自社の経理のどこに時間がかかっているかは、経理の現状分析(無料)からご相談いただけます。ご契約を前提としたご案内ではありません。
よくある質問
経理の業務フローチャートとは何ですか?
記帳や支払いなど経理の手順を、記号と矢印で1枚の図に示したものです。
フローチャートは何から作り始めればいいですか?
いきなり清書せず、対象業務の作業を書き出した情報整理表から始めます。
フローチャートを2回に分けて作るのはなぜですか?
最初は担当者の理解用、次は現場で使う共有用と役割が違うからです。
記号の意味に決まりはありますか?
JIS規格はありますが、社内で統一すれば独自ルールでも問題ありません。
1業務のフローチャート作成にどのくらい時間がかかりますか?
情報整理から清書まで、業務が単純なら半日程度が目安になります。
経理BPOに委託する場合もフローチャートは必要ですか?
委託範囲を正確に伝える資料になるため、あった方が引き継ぎがスムーズです。
まとめ: 経理の業務フローチャートは「2回描く」つもりで始める
経理の業務フローチャートは、いきなり清書を目指さず、理解のための下書きと共有用の清書に分けて描くと、迷わず完成させられます。対象業務を1つに絞り、作業を書き出し、記号で図にし、現場で確認するという4ステップを踏めば、担当者が変わっても止まらない手順が残ります。
MJSの調査でも、経理担当者の50.0%が属人化を悩みとして挙げています。承認経路・締め日・仕訳のタイミングという判断に関わる情報を図に残すことが、属人化への直接的な対策になります。
まずは、社内で最も質問が集中している1つの業務を選び、作業を書き出すところから始めてください。自社だけで図にする時間が取れない場合は、経理BPOの無料相談で相談することもできます。