経理の業務委託は、多くの場合「準委任契約」として結ばれます。準委任は作業をきちんと行うことを約束する契約で、決算書の完成のような結果までは約束しません。請負として結ぶと責任・報酬の払い方・解約のルールが変わるため、頼む前に型を決めておくと後のもめごとを防げます。
この記事は、経理業務を外部に業務委託しようとしている中小企業の経営者・管理部門の責任者向けです。委託を受けて働きたい方向けの求人情報は扱っていません。
※ 2026年9月時点の情報です。条文の番号は民法の現行版にもとづきます。
この記事でわかること
- 経理の業務委託で使われる準委任と請負の違い
- 自社の経理をどちらの型で結ぶべきかの判断基準
- 個人・会社・税理士という頼み先ごとの注意点
- 契約前に確認する5つと、よくある失敗
経理の業務委託とは?準委任と請負の2つの型
経理の業務委託とは、記帳や支払い準備などの経理作業を、雇用ではなく契約で外部に任せることです。
準委任契約とは、法律行為ではない事務の処理を任せる契約です(民法656条)。請負契約とは、仕事の完成を約束し、その結果に報酬を払う契約です(民法632条)。「業務委託」は法律上の名前ではなく、実際はこの2つのどちらかに当たります。
契約書の表題が「業務委託契約書」でも、中身で準委任か請負かが決まります。民法(e-Gov法令検索)の条文を読むと、両者は責任の重さも解約のしかたも別物です。
記帳・請求書の発行・支払いデータの作成は、毎月くり返す事務の処理です。そのため、経理の業務委託は準委任で結ぶのが通例になっています。
当社は補助金を使った会計ソフト・受発注ソフトの導入支援を手がけており、経理を外に出す相談も受けてきました。契約書の表題だけ見て、型を確かめずに署名している会社は少なくありません。
準委任と請負の違い|責任・報酬・解約の比較
準委任と請負は、約束するものが「作業」か「結果」かで分かれ、責任・報酬・解約・印紙の扱いが変わります。
下の表は、経理の業務委託で差が出る5つの点を並べたものです。
| 比べる点 |
準委任 |
請負 |
| 約束するもの |
事務をきちんと処理すること |
決めた仕事を完成させること |
| 委託先の責任 |
善管注意義務(民法644条) |
契約不適合責任(知ってから1年以内に通知) |
| 報酬の払い方 |
作業の後払い。成果に払う型も可(民法648条の2) |
完成した成果物の引き渡しと同時 |
| 途中でやめる |
どちらからもいつでも解除できる(民法651条) |
完成前なら発注側が損害を払って解除できる |
| 契約書の印紙 |
委任だけなら課税文書に挙がっていない |
第2号文書。継続契約なら第7号の4,000円の場合あり |
準委任でも、ミスの責任は問えます。善管注意義務とは、その仕事の専門家として通常求められる注意を払う義務のことです。
請負では、完成した成果物に不具合があれば直させる、または代金を減らすことができます。一方で、途中の作業の進め方には口を出しにくい型でもあります。
印紙税は、国税庁の印紙税額の一覧表(その2)で、業務委託契約書が第7号文書の例に挙がっています。4,000円がかかるのは、請負などを含む継続的な取引の基本契約です。判定は契約書の中身で決まるため、迷ったら税務署に確かめてください。
経理業務はどちらの型で結ぶべきか
毎月の記帳や支払い準備なら準委任、年1回の決算書作成のように成果物で区切れる仕事なら請負が向きます。
契約の型を決める3ステップ
型は、任せる作業が「成果物で区切れるか」で決めます。判断の分かれ目は次のとおりです。
- 毎月くり返す事務(記帳・請求書の発行・支払いデータの作成)なら準委任。終わりのない作業に「完成」は定義できません
- 1回で終わる成果物(過去3年分の帳簿の整理、決算前の残高の洗い直し)なら請負。完成の基準を書けば、仕上がりで判断できます
- 両方を頼むなら、基本契約を準委任にして、成果物の仕事だけ個別契約で請負にする
準委任で結ぶ場合は、締め日と「どこまでやれば1か月分の作業が終わりか」を契約書に書いてください。完成の約束がない分、作業の範囲があいまいだと争いの種になります。
請負で結ぶ場合は、完成の基準を決めます。たとえば「試算表の残高が通帳・請求書の控えと一致している」のように、確かめられる形で書くのがこつです。
完成の基準は、第三者が見ても合否を言える形にします。経理の仕事でよく使う書き方は次の3つです。
| 頼む仕事 |
完成の基準の書き方(例) |
| 過去分の帳簿の整理 |
対象期間の全取引が会計ソフトに入り、預金残高が通帳と一致している |
| 決算前の残高の洗い直し |
売掛金・買掛金の残高が、取引先ごとの明細と一致している |
| 経理マニュアルの作成 |
作業ごとに手順と締め日が書かれ、担当者が読んで作業できる |
「きれいに整える」「わかりやすくまとめる」といった書き方は、完成したかどうかを誰も判断できません。請負なのに基準がない契約は、支払いの時期でもめます。
頼み先で変わる注意点|個人・会社・税理士
同じ業務委託でも、相手が個人か会社か税理士かで、守る法律と頼める範囲が変わります。
経理の業務委託でよく選ばれる3つの頼み先を、注意点で比べました。
| 頼み先 |
守る決まり |
頼めない・注意する点 |
| 個人(フリーランス) |
フリーランス法の取引条件の明示 |
急な休みで作業が止まる。申告書は作れない |
| 経理代行・BPO会社 |
契約書の範囲と再委託の条件 |
範囲外の作業は追加料金。申告書は作れない |
| 税理士(個人事務所・税理士法人) |
税理士法の守秘義務 |
個人事務所への報酬は源泉徴収が必要 |
個人に頼む場合は、2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(公正取引委員会)が関係します。業務の内容・報酬の額・支払期日などを、書面かメールで相手に示す義務があります。
従業員を雇っている会社が個人に頼む場合、報酬は受け取りから60日以内に払う決まりもあります。6か月以上続く委託を途中で打ち切るなら、30日前までの予告が必要です。
税理士でない相手に、申告書の作成や税務相談は頼めません。税理士法で税理士の独占業務とされているためです。境目の詳細は記帳代行は税理士法違反?3つの独占業務とNG事例で整理しています。
税理士の個人事務所に払う報酬は、国税庁の弁護士や税理士等に支払う報酬・料金のとおり源泉徴収の対象です。100万円以下の部分は10.21%を差し引いて払います。
個人に頼むかどうかで迷う場合は、経理外注は個人(フリーランス)でも可能?で向き不向きを比べています。
どこから手をつけるべきかの整理は、経理の現状分析(無料)からご相談いただけます。ご契約を前提としたご案内ではありません。
業務委託で頼む前の確認5つ
業務委託を始める前に、範囲・型・指示の窓口・資料の扱い・終わり方の5つを書面で決めてください。
業務委託で頼む前の確認5つ
5つの中身は次のとおりです。
- 範囲: 任せる作業と締め日を一覧にする。「経理全般」とだけ書かない
- 型: 準委任か請負かを条文の中身で決める。表題だけで判断しない
- 指示: 自社側の窓口を1人に決め、相手の作業者に直接細かく指示しない
- 資料: 通帳・領収書・会計ソフトのログイン情報の受け渡し方法と保管期間を決める
- 終わり方: 解約の予告期間と、やめるときに返してもらうデータを決める
範囲の一覧は、作業ごとに「締め日」と「型」を横に並べると抜けが見えます。書き方の例は次のとおりです。
| 作業 |
締め日 |
型 |
自社に残すこと |
| 領収書・請求書の仕訳入力 |
翌月10日 |
準委任 |
証憑を月末までに渡す |
| 売上の入金確認 |
毎週金曜 |
準委任 |
入金が遅れた先への連絡 |
| 支払いデータの作成 |
毎月20日 |
準委任 |
振込の承認ボタンを押す |
| 前期分の帳簿の整理 |
契約から2か月 |
請負 |
前期の通帳と請求書の控えを渡す |
右端の「自社に残すこと」を書くのがこつです。振込の承認のように、お金が動く最後の操作は社内に残してください。
契約書のどの条項を読めばよいかは、経理BPOの契約書|見落としやすい条項6つと確認手順に条項ごとにまとめています。
5つのうち、後回しにされやすいのは「終わり方」です。始めるときは誰も終わりを考えませんが、担当者が変わるたびに資料の返却でもめます。
経理の業務委託で起きやすい失敗
経理の業務委託で多い失敗は、契約は業務委託なのに、実態が自社の指示で働く形になっていることです。
注意: 業務委託なのに細かく指示すると偽装請負になる業務委託の相手に、自社の社員が作業の順番や時間まで直接指示すると、
実態は労働者派遣と見なされ、偽装請負として是正指導の対象になります。判断の基準は厚生労働省の
37号告示の疑義応答集で確認できます。
よく見る失敗は、次の3つです。
- 「経理全般」とだけ書いた: 年末調整や給与計算が範囲に入るかで、あとから追加料金の話になる
- ログイン情報を共有アカウントで渡した: 契約が終わっても、相手が会計ソフトに入れる状態が残る
- 毎日チャットで作業を指示した: 業務委託のつもりが、実態は人を借りる形になっていた
すでに毎日指示を出している状態なら、指示の出し先を改めます。自社の窓口を1人に絞り、作業者ではなく委託先の責任者へ依頼を出す形にしてください。
人手として指示を出しながら使いたいなら、業務委託ではなく派遣が合っています。違いは経理BPOと人材派遣の違い5つで比べています。
業務委託と経理BPOのどちらを選ぶか
担当者1人が抜けると経理が止まる会社は、個人への業務委託より、体制で引き受ける経理BPOが向きます。
経理BPOも契約の上では業務委託ですが、作業を複数人の体制で引き受ける点が違います。個人への委託は費用を抑えやすい一方で、その人が休めば作業も止まります。
当社が2023年1月から2026年8月までに経理BPOを導入した10社では、2年以内に解約したのは1社でした(継続率90%)。契約から2年以内の解約の有無で集計した自社の数字です。
また、経理BPOを導入した10社の集計では、月次決算が締まるまでの日数が中央値で15日から7日に短くなりました(2024年4月〜2026年8月・10社の中央値)。ただし個社差が大きく、どの会社でも半分になるわけではありません。
選び分けの目安は次のとおりです。
- 仕訳が月100件に満たず、社長が内容を見られるなら、個人への業務委託で足ります
- 担当者が1人で、休むと支払いが止まるなら、経理BPOで体制ごと任せてください
- 社内に経理を育てたいなら、外に出さず内製を続ける判断もあります
反対に、経理BPOが向かないのは、取引の中身を社長しか知らない会社です。仕訳の前に「何の支払いか」を聞ける相手が社内にいないと、委託先は確認を待って手が止まります。
その場合は、先に領収書へ用途を一言メモする習慣を作ってください。メモがそろってから委託すると、立ち上がりが早くなります。
内製を続けるか外に出すかで迷っている段階なら、経理の内製と外注を比較|6つの軸で見る違いと選び方を先に読むと整理しやすくなります。
よくある質問
経理の業務委託は、準委任と請負のどちらで結ぶのが一般的ですか?
記帳や支払い準備のような継続的な事務は、作業の遂行を約束する準委任で結ぶのが一般的です。
準委任契約でも、ミスがあれば委託先に責任を問えますか?
問えます。受託者は善管注意義務を負うため、通常求められる注意を怠ったミスは責任の対象です。
経理の業務委託契約書に収入印紙は必要ですか?
委任だけの契約書は課税文書に挙がっていません。請負の要素を含む継続契約は4,000円の場合があります。
フリーランスに経理を業務委託するとき、何に気をつければよいですか?
フリーランス法により、業務内容・報酬額・支払期日などの取引条件を書面か電子で示す必要があります。
業務委託した相手に、申告書の作成まで頼めますか?
税務書類の作成は税理士の独占業務です。税理士資格のない相手には記帳までを頼んでください。
まとめ: 経理の業務委託は「型」を決めてから契約する
経理の業務委託は、毎月の事務なら準委任、成果物で区切れる仕事なら請負で結びます。型によって、責任の問い方・報酬の払い方・解約のしかたが変わります。
頼み先が個人ならフリーランス法、税理士の個人事務所なら源泉徴収が関係します。申告書の作成は税理士にしか頼めません。
今日できる一歩は、任せたい経理作業を1枚の紙に書き出し、それぞれに締め日を添えることです。その一覧が、準委任か請負かを決める材料と、契約書の範囲の下書きになります。