小規模事業者の経理体制は、経営者が自分で兼務する・パートやアルバイトを雇う・経理BPOを併用するという3パターンから、事業の規模と取引量に合わせて選びます。体制を決めずに人だけ増やしても、属人化は解消しません。中小企業庁の調査でも経理・財務担当者が1人という事業者が過半数を占めており、体制づくりは特別なことではなく、多くの小規模事業者が直面する共通の課題です。
この記事は、経理担当者が1人以下で、経理業務の分担や外部委託を検討している小規模事業者の経営者・管理部門責任者向けです。
※ 2026年8月時点の情報です。
この記事でわかること
- 小規模事業者の経理体制とは何か
- 体制が整っていない場合の3つのリスク
- 規模別の経理体制3パターンと選び方
- 体制を構築する3ステップとNG対応
小規模事業者の経理体制とは?定義とよくある3つの状態
小規模事業者の経理体制とは、記帳・請求書発行・支払い・給与計算などの経理業務を、誰がどこまで担うかを決めた仕組みを指します。
小規模事業者とは、中小企業基本法上、商業・サービス業は常時使用する従業員5人以下、それ以外の業種は20人以下の事業者を指します。==詳しい線引きは
中小企業庁の定義で確認できます。==
この規模の事業者では、経理専任者を置く余裕がないまま日々の業務が回っていることが珍しくありません。中小企業庁が公表した「中小企業における会計の実態調査」では、経理・財務担当者が「1人」と回答した企業が58.2%にのぼります。
現場でよく見かける状態は、大きく3つに分かれます。経営者自身が合間に経理をこなす状態、事務担当が経理も兼務している状態、そして最初から特定の1人に業務が集中している状態です。
いずれも「体制」と呼べる設計がなく、担当者の裁量とその場の判断で業務が回っています。この状態は、担当者が休んだり辞めたりした瞬間に破綻するという共通の弱点を持ちます。
体制を作るとは、この属人的な状態に、役割分担とルールを与えることです。人数を増やすことではありません。
たとえば経営者が経理を兼務している場合でも、記帳は経営者、請求書のチェックは事務担当、支払いの最終承認は経営者というように役割を分けるだけで、体制と呼べる形になります。人を増やさなくても、今いる人の役割を明確にすることから始められます。
経理体制が整っていないとどうなる?放置する3つのリスク
経理体制を整えずに放置すると、判断の遅れ・ミスの増加・退職時の業務停止という3つのリスクが強まります。
第一に、経営判断の遅れです。試算表の作成が特定の担当者の空き時間任せになると、資金繰りの状況を経営者が把握できるタイミングが遅れます。数字が見えないまま仕入れや採用の判断をすることになり、経営リスクにも直結します。
第二に、ミスの増加です。チェックする人がいない体制では、仕訳や支払いの誤りが決算直前まで発覚しないことがあります。二重チェックの仕組みがないことが原因で、金額の入力ミスや二重払いのような単純な誤りほど見逃されやすくなります。
第三に、退職時の業務停止です。株式会社ミロク情報サービスのMJS税経システム研究所が実施した調査があります。「中小企業の経理担当者の働き方&実務の困りごと実態調査」では、経理担当者の悩みで最も多かったのが「業務の属人化」で50.0%でした。次いで「業務量の多さ」が32.0%です。属人化そのものが、担当者本人の悩みとして表れています。
私たちは補助金を使った会計ソフト・受発注ソフトの導入支援を通じて、中小企業が経理業務のどこでつまずくかを申請の現場で見てきました。経営者が経理を兼務している事業者ほど、繁忙期に記帳が数か月分たまってしまう相談を受けることが多いという実感があります。
属人化そのものの解消法は、経理の属人化を解消する5つの方法で詳しく解説しています。
小規模事業者の経理体制3パターン|比較と選び方
小規模事業者の経理体制は、経営者兼務・パート活用・経理BPO併用の3パターンに大別でき、取引量と成長スピードで選び方が変わります。
関連する内容として経理の外注と丸投げの違いも公開しています。
関連する内容としてATM入出金の記帳のやり方も公開しています。
小規模事業者の経理体制3パターン
| パターン |
向いている状態 |
強み |
弱み |
| 経営者が兼務する |
取引件数が少ない創業初期 |
追加コストがかからない |
経営判断の時間が削られる |
| パート・アルバイトを雇う |
定型作業が一定量ある |
採用すれば実務から離れられる |
採用難易度が高く教育の負担がある |
| 経理BPOを併用する |
専門性やチェック体制も欲しい |
採用や教育の負担なく体制が整う |
委託範囲の見極めが必要 |
第一に、経営者自身が兼務するパターンです。取引件数が少ない創業初期に向きますが、事業が伸びるほど経理に割ける時間が経営判断の時間を圧迫します。
第二に、パートやアルバイトを雇うパターンです。定型的な入力作業が一定量ある場合に有効ですが、会計事務の採用は簡単ではありません。厚生労働省の「一般職業紹介状況」によると、会計事務従事者の有効求人倍率は0.61倍と、一般事務の0.32倍を上回ります。
第三に、経理BPOを併用するパターンです。記帳や給与計算などを外部に委託し、社内には確認と承認だけを残す方法です。
採用や教育の負担なく専門性の高い体制を得られます。委託できる範囲や費用の考え方は経理BPOとは?メリット3つと費用相場をわかりやすく解説と経理アウトソーシングの費用相場【2026年】内訳と抑え方で解説しています。
3パターンは排他的ではなく、経営者兼務+一部BPOのように組み合わせて使う事業者も多くあります。たとえば日々の入金確認だけは社内で行い、月次試算表の作成や給与計算はBPOに任せるといった分け方です。
どのパターンにも共通して言えるのは、業務の一部だけを外部に任せる「部分委託」から始められるという点です。最初から全部を切り替える必要はなく、負担が大きい業務から少しずつ移していく進め方でも、体制としては十分に機能します。
経理体制を構築する3ステップ
経理体制の構築は、業務の洗い出し・体制の選択・運用ルールの決定という3ステップで進めます。
経理体制を構築する3ステップ
ステップ1: 業務を洗い出す
記帳・請求書発行・入金確認・支払い・給与計算・年末調整など、経理に関わる業務を紙に書き出します。頻度と所要時間もあわせてメモしておくと、次のステップで判断しやすくなります。
ステップ2: 体制を選ぶ
洗い出した業務量をもとに、前章の3パターンから体制を選びます。全部を1人で抱えず、定型業務だけ切り出して外部に任せる判断も含めて検討します。
ステップ3: 運用ルールを決める
誰が・いつまでに・何を確認するかをルール化します。担当者が1人でも、承認だけは経営者や他の担当者が行うなど、チェックの仕組みを分けておくことが重要です。ルールを文書化する具体的な手順は、経理マニュアルの作り方とは?属人化を防ぐ5つの手順で解説しています。
3ステップは一度で完成させる必要はありません。まず現状を洗い出すところから始めてください。
私も、経理体制の相談を受ける中で、業務の洗い出しをせずに「とりあえず人を増やす」判断から始めてしまう経営者に何度か出会いました。洗い出しを飛ばすと、新しく入った担当者に何を任せればよいかが決まらず、結局は既存の担当者に確認する手間が増えるだけになります。順番を守ることが、遠回りに見えて一番早い進め方です。
経理体制を選ぶときの判断基準
経理体制は、従業員数ではなく取引件数・月次決算のスピード・資金繰りの複雑さという3つの基準で選ぶのが実務的です。
取引件数が月数十件程度なら、経営者兼務でも回ることがあります。一方で取引先が増え、請求書や入金確認の件数が積み上がると、兼務のままでは他の業務が後回しになります。目安になるのは、経理作業のために営業や現場の時間を削っている実感があるかどうかです。
月次決算をどれだけ早く締めたいかも判断基準です。資金繰りの数字を翌月早々に把握したい事業者ほど、専任またはBPOによる体制が向いています。
資金繰りの複雑さも見逃せません。複数の金融機関との取引や、補助金・助成金の申請が絡む場合、会計処理の正確性がより重要になります。個人事業主でも判断基準は同じで、経理代行は個人事業主でも使える?費用相場と選び方3つの軸で個人事業主向けの選び方を解説しています。
3つの基準のどれか1つでも当てはまれば、体制の見直しを検討するタイミングです。判断に迷う場合は、3つすべてを同時に満たす必要はなく、最も業務を圧迫している基準から優先的に対処すると決めやすくなります。
たとえば取引件数はまだ少なくても、補助金の実績報告のように期限が厳しい書類が絡む事業者は、資金繰りの複雑さを優先して体制を見直す価値があります。逆に取引件数だけが増えている場合は、定型業務を切り出すパート活用やBPOの部分委託から検討すると、コストを抑えたまま対応できます。
経理体制構築でやってはいけないNG対応
経理体制の構築は、人手が足りなくなってから動いたり、体制を決めずに担当者だけ増やしたりすると効果が出ません。
経理体制構築のNGとOK
注意: 担当者が辞めてから体制を考えるのは遅い
欠員が出てから採用や委託を検討すると、その間の記帳や支払いが止まります。余裕があるうちに、体制の候補だけでも決めておく必要があります。
体制を決めずに担当者だけ増やすのもNG対応です。役割分担を決めないまま人を増やすと、結局1人に業務が集中する状態が再現されます。
全部を1人に集中させ続けるのも同様です。承認や確認だけでも他の人に分ける仕組みがないと、属人化のリスクは残ったままになります。
一度決めた体制を見直さないことも注意点です。取引量や従業員数は変化するため、体制も定期的な点検が前提です。私たちが支援の現場で相談を受ける事業者の多くも、体制を一度作ったきり数年見直していないケースがほとんどでした。
自社の経理のどこに時間がかかっているかは、経理の現状分析(無料)からご相談いただけます。ご契約を前提としたご案内ではありません。
経理体制を将来的に見直すタイミング
経理体制は、取引量や従業員数が一定の水準を超えたとき、または月次決算の遅れが常態化したときに見直します。
事業が成長すると、当初は問題なかった経営者兼務やパート活用の体制でも、業務量が追いつかなくなる時期が来ます。見直しのサインは、月次決算の締め日が毎月後ろ倒しになることです。
繁忙期だけ乗り切ろうとして、毎回その場しのぎで対応を続けるのも見直しのサインです。同じ時期に同じ負荷がかかると分かっているなら、恒常的な体制に切り替えたほうが負担は小さくなります。
従業員数が増えるタイミングも見直しの目安になります。人が増えれば経費精算や給与計算の件数も比例して増えるため、経営者兼務のままでは対応しきれなくなる時期が早まります。採用計画を立てる段階で、経理体制の見直しもあわせて検討しておくと、後手に回らずに済みます。
自社に合う体制が分からない場合は、経理BPOの無料相談で、委託できる範囲だけでも相談することができます。体制の見直しは、業務が止まってからでは選べる手段が限られます。
よくある質問
小規模事業者の経理体制とは何ですか?
記帳・請求書発行・支払いなどの経理業務を、誰がどこまで担うか決めた仕組みです。
経理担当者は何人必要ですか?
人数よりも、兼務・パート・経理BPOの組み合わせ方で判断するのが実務的です。
経理体制が整っていないとどうなりますか?
属人化やミスが増え、担当者が退職すると業務が止まるリスクが高まります。
経理体制を整える最初のステップは何ですか?
現在の経理業務をすべて洗い出し、誰が何を担当しているか可視化することです。
個人事業主でも経理体制は必要ですか?
記帳や申告の負担は事業規模を問わず発生するため、簡易な体制でも必要です。
経理体制の見直しはいつ検討すべきですか?
取引量や従業員数が増えたときや、月次決算が遅れ始めた時が見直しの目安です。
まとめ: 経理体制は規模に合わせて「今」決める
経理体制は、人手不足を感じてから考えるのではなく、事業の規模に合わせて先に決めておくことで、担当者の退職や繁忙期にも揺らがない仕組みになります。
まずは自社の経理業務をすべて洗い出し、経営者兼務・パート活用・経理BPO併用のどれが向いているかを検討してください。判断基準は取引件数・決算スピード・資金繰りの複雑さの3つです。
自社だけで体制を決めるのが難しい場合は、経理BPOの無料相談で、委託できる範囲を確認することもできます。体制づくりは早いほど、選べる選択肢が多く残ります。